長男の誕生日を台無しにしてしまった〈お父ちゃんやってます!加瀬健太郎〉
長男にメンチをきられた。「メンチをきる」というのは主に関西のヤンキー語で、「ひき肉を切る」という意味ではなく、「にらみつける」という意味。
先月の長男12歳の誕生日。ケーキの最後のひと切れを、誰が食べるかジャンケンで決めていた時のこと。ジャンケンで負けた長男を僕が面白半分にはやし立てたのがいけなかった。長男が、ぎろりとにらんできた。
僕は思い出していた。昨年のプロ野球、阪神対ヤクルト戦。阪神ベンチのやじに、ぎろりとにらみ返した村上宗隆選手を長男とするなら、僕はにらまれて感情的に反応した阪神の矢野監督。
次の瞬間、「親をそんな目で見やがってこの野郎」と僕は怒鳴っていた。楽しいはずの12回目の誕生日を台無しにしてしまった。
なぜだろう。僕は常々、子どもたちが仕掛けてくる難題というトラップを知恵とユーモアで難なく切り抜けることのできる我慢強い、大きな父親でありたいと心から願っているのに、実際はトラップにことごとくハマり、時に自滅し、機転の利かない、感情的で、ちっちゃくてダメな父親になってしまう。12年も父親をやっているのに。
もし仮に、僕がドラゴンボールを7つ集めることができたら、「オラを新聞の子育て欄で連載を持つ資格があるような立派な父親にしてくれ!」とシェンロンにお願いすると思う。
次の朝、昨晩のことを長男に謝ると、「僕もごめんなさい」とうつむいたまま気まずそうに言ってきた。余計に胸に刺さった。
加瀬健太郎(かせ・けんたろう)
写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。12歳、9歳、5歳、1歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。
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