作家 二宮敦人さん 9歳下の妻といれば、どんな時も「何とかなる」
大学生だった妻がプロポーズ
9歳下の妻は、結婚したとき、東京芸術大彫刻科の2年生でした。妻は、僕の小説を読んでいて「この作家さんをずっと追いかけたい」と思っていたそうです。知人の紹介で知り合い、まだ付き合ってもいない時に、妻から「結婚してください」とプロポーズされました。妻の両親は「ええやん、ええやん」と喜んで結婚を認めてくれました。
大学時代の妻は彫刻で家中泥だらけ。部族の戦士のように頬には粘土がついていました。妻のお母さんは妻が子どものころ砂や泥でどんなに服を汚しても一切怒らなかったそうです。妻の感性は、そうしたおおらかな環境で育まれたのでしょう。
長男が生まれたのは、妻が大学3年生の時。妻は卒業制作で息子の石こう像を作りました。大学の許可をもらい卒業式には息子と一緒に出ました。
妻といると、どんな時でも「何とかなる、何とかしてしまえばいい」と感じられます。僕は心配性で「大地震が来て何もかも失ったらどうしよう」などと考えます。しかし妻は、「木があれば家を建てればいい。食べ物は魚を釣ってくればいい」と答えます。原始的なパワーがある妻は、無人島に連れて行きたい人ナンバーワンです。
3人の子どもから「ときめき」
長男の「ちんたん」は小学1年生。プレゼントに買ってあげたおもちゃの刀を持って「お父さん、敵が来たら守ってあげるからね」と言ってくれました。仕事がうまくいかずに、「このままではお金がなくなって死ぬ」と嘆いた時には、「じゃあ、お金あげるからね」と、折り紙で作ったお札をくれました。ゼロが6個もある100万円札でした。
次男の「たっちゃん」は3歳。ミニトマトのパックを渡すとヘタをとって次々と差し出してくれます。なくなるまで終わりません。僕が悲しんでいた時には「よしよし」と頭をなでてくれました。
今、僕が抱っこしながら一緒にこの取材を受けている三男の「アキちゃん」は11カ月。仕事部屋に乱入してくるし、何でも口に入れて目が離せません。でも愛くるしい笑顔をふりまいてくれます。
仕事が積み重なった時に、2人同時にうんちをした時なんて、もう大変。子育ては自分の時間を奪われ、ずっとボディーブローをくらっているかのように疲れます。妻と2人で出かけたいなとも思います。
でも、子どもたちはときめきを与えてくれる。何ともない景色が輝いてみえます。
人間はみんな未完成。自分自身が望む人格を目指し成長していく。それが生きるということなのでしょう。そして相手が一緒にほんわかしてくれて初めて、愛は愛と呼べる。人間になるとは、愛し方を学ぶことだと感じます。
二宮敦人(にのみや・あつと)
作家。1985年、東京都生まれ。妻との出会いを機に書いた「最後の秘境 東京藝(げい)大 天才たちのカオスな日常」(新潮社)は累計40万部のベストセラーに。小説「最後の医者は桜を見上げて君を想(おも)う」(TOブックス)、子育てエッセー「ぼくらは人間修行中 はんぶん人間、はんぶんおさる。」(新潮社)など著書多数。