妻が頑張った日、息子も頑張った日〈清水健さんの子育て日記〉56
珍しく熱を出した息子に聞かれて
今まで病院に行ったのは何回かな?と思うくらい、風邪もひかない息子が、40度近い熱を出した。「熱が高いのには慣れている」と言う自分がイヤだけど、妻の闘病中に目の当たりにしてきた。だからと言って、落ち着いてなんてはいられず、夜は1時間ごとに目が覚め、熱を測り、布団をかけ直す。ばあちゃんと姉にもいつも以上に頼る。
僕があたふたしているのが病院の先生にも看護師さんにもわかるのか、「大丈夫ですよ!」と何度も丁寧に説明してくださった。病院からの帰りの車の中、息子の熱がきっかけで自然とできた親子の会話がある。「ママはどれくらい熱が出ていたの?」「うん、ずっと40度だったかな」「それでも元気だった?」
それでも。妻は、息子のオムツをかえ、膝の上でいとおしそうに息子を抱っこしてミルクをあげていた。僕の食事の心配までも。特に体調がすぐれない時は、2メートルも離れていない僕に「体温計、取ってくれますか?」とLINE(ライン)をしてきたこともあったけど。
息子が生まれてきてくれて112日後に、僕たちの横からいなくなってしまった妻。がんが全身に転移しているのがわかったのは出産して1週間後。よく考えると、平熱の時って112日間のうち、10日ほどしかなかったと思う。
1歳の誕生日 一緒に祝えなくて
こんな話をしていると、息子はしんどそうにしながらも、覚えてはいない「あの時」だけれども、頑張っていたママのことを知り、誇らしげな表情をする。9歳の誕生日をむかえ、あまり僕とは手をつながなくなってきました。寂しくもあるけど、その気持ちも、自分の子どもの頃を思い出すと十分にわかる。「家族」が集まり、ケーキのろうそくに息を吹きかける。
1歳の誕生日は寂しくてたまらなかった。うれしいはずの息子の誕生日なのに、一緒にお祝いできない寂しさが強かった。今でもお世話になっている産婦人科の先生に気持ちをはき出したことがある。「わかるよ。でも、この日って、奈緒ちゃんが頑張った日だよ。おもいっきりお祝いしてあげよう。笑ってあげよう」。その言葉にハッとしたのを覚えている。
妻が頑張った日、息子も頑張った日。記念日には決まって、写真の前にいつもより多めに飾る、妻が好きだったガーベラがいつも以上に顔をこちらに向けている気がした。ばあちゃんに風邪をうつしたらダメだからと、しばらく夜は僕の隣で寝る、優しい息子に成長しています。
清水健(しみず・けん)
フリーアナウンサー。長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。
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