妻の闘病中、看護師さんに救われて…いま感謝とともに伝えたいこと〈清水健さんの子育て日記〉55

(2023年10月11日付 東京新聞朝刊)
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先に「疲れた!」とは言いたくない。お互いに意地を張りあう親子ふたりです(笑)

清水健さんの子育て日記

看護学校での講演 病と向き合って

 「気分転換にランニングに行かない?」と息子を誘い、1周5キロある公園のコースに向かう。久しぶりのランニング、誘った僕の体がついてこない。「少し歩こうか!」。疲れているのがバレないように、明るく息子に提案する。

 「歩いたら意味がないよ。ゆっくりでもいいから走ろう」と息子にもっともなことを言われ、追いかける。ちょっとした気分転換のつもりが、本格的なランニングに。体力もついてきた! 先を行く息子の背中がたくましく見えた。

 先日、看護学校での講演がありました。これから命の現場へと向かう看護学生に、病と向きあわざるを得なかった家族の立場として、みんなならどうするだろう?と何度も問いかける。

 病への向きあい方はそれぞれ。全部に対応するのは大変だと思う。正直、無理なこともあると思う。僕が話せるのは、一つの家族のカタチでしかないけれど、みんなそれぞれに、自分の看護観と照らしあわせる時間になっていればうれしい。

あの時、赤ちゃんだった息子も小3に

 妻の腕には、点滴、血液検査、治療、注射の痕がいくつもあった。もう針をさす血管がみつからなくなった時、担当の看護師さんは、それでも、何とか細い血管を見つけてくれて、「大丈夫! この血管は元気だよ!」と、笑って妻の腕を優しくさすってくれた。無理した笑顔だったと思う。

 これからへの不安。本人、その家族は、周りが見えなくなってしまうことがある。不安に押しつぶされそうになっても、無理して強がることもある。僕たちもそうだった。そんな時、看護師さんの言葉、表情ひとつにどれだけ心を救われるか。

 「あの時」の感謝を込めて、全力でみんなに伝えたい。治療はもちろんだけど、患者さん、ご家族の心に気付ける看護師さんになってほしい。でも、何よりも、まずは、みんな自身が一番に、幸せな人生を歩んでほしいと心から願う。

 あの時、赤ちゃんだった息子は小学3年生の後半をむかえた。毎朝、一緒に歯を磨き顔を洗う。毎日のことだけど、ハッとすることがある。こんなに身長、高かったかな? 鏡にうつる息子の顔が立派な少年になってきた。

 「行ってきます!」、妻の写真の前で手をあわせ、いつもと同じように息子は学校、僕は仕事へと家を出る。「いつも」があることに、感謝しかない。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。8歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。

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なるほど!

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グッときた

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もやもや...

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もっと
知りたい

すくすくボイス

  • ぷう says:

    看護師です。患者さんはもちろん、家族にも優しくケアできるよう、心がけています。
    つらいときは、無言で、、、背中を腕をさすりながらわらって、泣いて。怒って。悩んで。
    あの時は、ありがとうございました、といってもらえることも。
    出会ってくれてありがとう。ケアさせてもらってありがとう。清水さん、応援しています。子育ては自分育てでもあります。頑張りすぎず、楽しくいきましょう。

    ぷう 女性 50代
  • じゅん says:

    私自身も持病があり何度も入退院を繰り返し、毎日、泣いていました。

    そんな中、病棟の看護師さんは明るくさばさばしていて輝いていて、私が泣いていると、何も言わずただそばに居て寄り添い、時には手を握ってくれて、時にはハグしてくれて、そんな優しさの中、何度も励まされ、勇気づけられて涙は笑顔に変わり、退院の時は不安と喜びの中で居て背中を押され、看護師さんの支えがあったからこそ、今があります!

    あの時は、本当にありがとうございました。看護師の仕事は大変ですが体に気をつけて頑張って下さい。

    これから、看護師を目指ししてる学生の方へ。

    きっと、誰かの役に立ちたくてその道を目指し日々、勉強と実習に頑張ってる事と思います。実際に私が居た病院でも、多くの学生さんが実習にやって来られました。実習では、多くの出逢いがあったと思います。実習で学んだ事を生かして頑張って、看護師の国家資格を取得した後は、晴れて看護師として働く事となり、多くの患者さんとの出逢いがあると思います。

    誰も好きで病気になる人は居ません。悩める患者さんの為に寄り添い、初心を忘れず、目配り、気配り、心配り、何より言葉の薬を大事に、目の前の患者さんとの向き合って、少しでも患者さんが笑顔になれる様に精進して下さい。

    じゅん 女性 40代
  • みさちゃん says:

    去年まで関西に居たので、しみけんさんの事はよく知っています。

    私もシングルで2人の男の子を育てました。大変な事ばかりでしたが、今は40代の息子達からはえらそうに言われっ放しです。

    その時、その時を一番楽しんで過ごそうときめてからは辛い事も落ち込まずに乗り越えてこられたと思います。辛かった事も思い出です。

    子供はすぐに親から旅立ちますよ!今を楽しんで過ごして下さいね。

    みさちゃん 女性 70代以上
  • しゅっちゃまま says:

    看護師です。
    深いですね。どうしても目先の業務に必死になってしまうスタッフもいてます。経験が浅いなら尚更…

    今の看護学生は、なかなか手厳しいところが多いです…😭
    これから看護師を目指す方が、少しでも患者さんやご家族に寄り添うことの大切さを胸に、看護師を目指してくれますように。

    これからも、看護科での講演をよろしくお願いします!!

    しゅっちゃまま 女性 40代
  • 宇都宮女子 says:

    秋の深みは、悠くへと逝って仕舞ったひとを、心身の内によみがえす気が致します。
    奥様の呼吸を静かに見守られ、遺された幼子を抱き締めながらの歳月はー
    貴方様がもっと高齢に成られた時、はっきりと傍に舞い降りて来るような〰想いが致します。
    どうぞ、お子様共々くれぐれもご自愛くださいませ。
    実母の育児放棄に始まり、未だ居場所を探し続けている者より。

    宇都宮女子 女性 無回答
  • ゆんち says:

    私も姉を乳がんで亡くしました。息子さん大きくなられましたね、充分頑張ってこられたので無理されないようにのんびりと生活されて下さい。

    ゆんち 女性 50代
  • 南初子 says:

    清水さんの子育て日記毎回楽しみです。今回もとても感動しました💕

    清水さんも今まで誰にも言えず本当にひとりで悩んだこといっぱいあると思います。本当にこんな時妻がいてくれたらと思った事がいっぱいあると思います。でもシングルファザーとして息子さんを育てていると思います。清水さんも息子さんとの時間を本当に大切にしていると思います。少し深呼吸をし前向きに頑張って欲しいと思います。これからも体に気をつけて頑張ってくださいね。応援しています。

    南初子 女性 70代以上

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