自閉症の長男を育てる記者の思い「息子よ。そのままで、いい。」
自閉症の長男(18)を育てる元毎日新聞記者でRKB毎日放送(福岡市)東京報道部長の神戸金史(かんべかねぶみ)さん(50)が、出身地である群馬県下仁田町の町文化ホールで講演した。自閉症を含む発達障害への理解を呼び掛けるとともに、障害者に冷たい意見が広がりつつある現状に警鐘を鳴らした。(原田晋也)
「育て方が悪い」という一方的な視線
神戸さんは自身の体験を基に、発達障害への理解を呼び掛けるための取材を続けてきた。長男の金佑(かねすけ)さんは、小さいころから抱っこしても目が合わず泣き叫んで暴れた。幼児用ブロックを投げてガラスに当たる音を面白がり、1時間以上も続けることがあった。
意思の疎通が難しく、周囲からは虐待を疑われたこともある。3歳の時、自閉症の傾向があると診断された。現在は福岡市の特別支援学校で学んでいる。妻からは後になって「長男が2歳のころ、このままでは殺してしまうかもしれないと思った」と打ち明けられた。
<関連記事>「自閉症の息子へ」記事が反響 みなさんのコメントを読んで…神戸金史さんからメッセージ
「自閉症の子を持つ親は育て方が悪いという一方的な非難と視線を浴びている」と神戸さん。自閉症の子を育てる家庭を追ったドキュメンタリー番組をつくった時には、放送後、2週間前に娘が子育てに悩み自閉症の孫と心中してしまったという女性から「この放送を見ていたら、娘と孫は死ななかったかもしれない」という手紙が届いたという。
「騒いでいる子どもを見たら、自閉症かもしれないと考えてくれたらうれしい。そして、あたふたしている親にちょっと一言かけてあげるだけで、その人はその夜飛び降り自殺しなくても済むかもしれない」と訴えた。
facebookに書き込んだ詩が大反響
神戸さんは「格差社会が進み障害者への見方が厳しくなっている」と感じているという。昨年7月、相模原市の障害者施設で入所者19人が殺害された事件では、被告は逮捕直後に「障害者は生きている資格がないと思った」と供述したと報じられた。神戸さんは事件の3日後、自身のフェイスブックに、思いを託した詩を書き込んだ。
「長男が、もし障害を持っていなければ」という想像から始まり、長男がいることで悩み考えたからこそ今の家族があることに気付き、「息子よ。/そのままで、いい。/それで、うちの子。/それが、うちの子。/あなたが生まれてきてくれてよかった。/私はそう思っている。」と締めくくった。この詩はインターネットメディアやテレビなどで取り上げられ、大きな反響を呼んだ。
2016年10月にはこの詩や長男への思いなどをまとめた「障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい。~」(ブックマン社)を出版した。
神戸さんは「みんな高齢者になって最後は動けなくなる。障害者に冷たい社会にしていくことは、将来高齢者になった自分が住みにくい社会にしていくこと。そんなささやかな想像力を失いつつある日本の社会はかなり怖い」と訴え、最後に「困っている人がいたらちょっと声を掛けてあげる。そんな雰囲気の社会にしていきたいと思っている」と静かに語った。
私は、思うのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。
私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。
何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」
長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。
そして目が覚めると、 いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。
ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。
幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、
私は朝食が喉を通らなくなります。
そんな朝を何度も過ごして、
突然気が付いたのです。
弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。
生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、
この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。
それから、私ははたと気付いたのです。
あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。
親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、
今の私たちではないのだね。
ああ、息子よ。
誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害を持って生きていかなければならない。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。
私の周りにだって、
生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。
交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。
私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。
息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害を持って生まれてきた。
老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。
誰もが、次第に障害を負いながら
生きていくのだね。
息子よ。 あなたが指し示していたのは、
私自身のことだった。
息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。
あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。
父より
(facebookの元記事はこちら)
【東京すくすくラジオ】サイト開設1周年の2019年9月にあわせて記者がつくった音声コンテンツです。記事を書いた原田記者が、取材の裏話や神戸さんのその後、コメント欄に寄せられた声への感想を語っています。
この記事を読んだ方から多くのコメントをいただいており、編集チームでも一つ一つ大切に読ませていただいています。ご自身の子の障害を受け入れるまでの心の揺れや、日々の苦労、そして子どもをかけがえのない存在だと感じる気持ち…。もし、直接お話を伺うためにご連絡したり、コメントを記事として紹介の中で使ってもいい、という方がいらっしゃいましたら、こちらの問い合わせフォームに感想や思いを書いていただけたらと思います。(東京すくすく編集チーム)
↓こちらでご覧いただけます↓
「自閉症の息子へ」記事が反響 みなさんのコメントを読んで…神戸金史さんからメッセージ
コメント