「だいじょうぶ」は、心をほぐす魔法の言葉 一時保護所の元職員が読み聞かせ絵本

(2019年9月7日付 東京新聞夕刊)
 虐待などで家庭から離された子どもの不安な心を解きほぐそうと、子どもを保護する一時保護所の元職員の初谷(はつがい)千鶴子さん(60)=千葉市=が、読み聞かせの絵本をつくった。これまでの経験から、子どもたちに安心と勇気を与えるおまじないの言葉「だいじょうぶ」をちりばめ、タイトルも「だいじょうぶのえほん」。子どもに関わるすべての大人へのメッセージも込めている。

一時保護所に来た子どもたちのために絵本を作った初谷千鶴子さん=東京都千代田区で

凍り付いた子どもの心が、溶ける瞬間に立ち会って

 「あれ? できない できない ぼたんが できないよ」「だいじょうぶ だいじょうぶ いっしょに やろうね」

 絵本は、一時保護所に来て戸惑う男の子に、保育士がやさしく語りかける様子が描かれている。

 食事の場面では、ご飯をかき込む男の子に「いそいで たべなくても だいじょうぶ」。ピーマンを嫌がれば「そうね きょうは すこし のこそうか」。頭ごなしに叱らず、子どもの気持ちにそっと寄り添っている。

 現在、千葉女子専門学校(同市)で保育を教える初谷さんは、千葉県内の一時保護所で保育士として16年間働いた後、淑徳大大学院で一時保護所での幼児支援を研究した。現場では苦労もやりがいも経験し、研究では一時保護所の職員の多忙さなどの課題もあらためて感じた。こうした経験や研究成果を、一時保護所などで役立ててもらおうと絵本づくりを思い立った。

 一時保護所では、凍り付いた子どもの心が溶ける瞬間に何度も立ち会った。体に触れられることを嫌がる子に絵本の読み聞かせなどを続けると、ある日突然「抱っこして」と言い出したり、小さい子のおもちゃを取ってしまう子に「貸してって言えば良いんだよ」と繰り返したら、1カ月後に「貸して」と口にしたり。

 「不安でいっぱいな子どもたちに、大丈夫だよ、大人たちみんなで支えるよ、と勇気をあげることが大切なんです」と言い切る。

忙しい現場…「後輩たちが子どもと向き合う助けに」

 一方、研究者として一時保護所を調査し、職員らが理想の保育と、忙しい現実のギャップに悩んでいる実態も痛感。「もっと関わってあげたいのにできない、と申し訳なさを感じる保育士も少なくなかった」

 だから、絵本には職員が子どもとゆっくり向き合う手助けになってほしい、との願いも込めた。「だいじょうぶ」は後輩へのエールでもある。

 一時保護所以外でも子どもとの向き合い方に悩むことはある。「子どもに関わる人たちに手に取ってもらえたら」と期待する。

 絵本は折り紙サイズで、ご飯やトイレなど場面ごとに4巻で構成。全巻セットで実費2260円(送料別)。問い合わせは千葉女子専門学校(初谷さん)=電043(226)1525=へ。

一時保護所とは

 虐待や非行などの理由で児童相談所が保護した18歳未満の子どもが一時的に生活する施設。保育士や児童指導員が世話をする。原則、最長2カ月で、家庭で暮らせないと児相が判断すると、子どもを児童養護施設や里親へ委託する。虐待対応件数の増加で、都市部などでは入所率が100%を超える施設もある。東京都では今年3月、保護所内で私語や目を合わせることを禁止するなど不合理なルールがあるとして、子どもの人権を侵害していると弁護士が指摘した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年9月7日