「放課後デイ」を知っていますか? 障害児が過ごす大切な場所 小平市の「ゆうやけ子どもクラブ」が映画に
2017年から1年半 子どもたちや職員を撮影
「例えば自閉症と一口にいっても、その個性は多様なんだということが今回の一番の発見」。こう話す井手さんは監督業30年以上のベテラン。茨城県で起きた「布川事件」で無期懲役の判決を受け、服役後に無罪となった2人の元被告を追った代表作「ショージとタカオ」のほか、高齢者福祉から伝統芸能の現場まで幅広く取材してきましたが、障害者をテーマにした作品は駆け出し時代以来だそうです。
2017年冬から約1年半、子どもたちの日々の活動や職員会議などをカメラに収めました。冬の公園でひたすらダンゴムシを探す子、音に敏感で他の子と離れて給湯室にこもる子、職員から注意を受けると叫びながら自らをたたこうとする子…。職員がひとりひとりを理解し、個性に合わせて楽しめる活動を創り出し、他者とも関われるよう、ゆっくり導いていく様子が淡々と映し出されます。
制度変更に揺れる放課後デイの現状を知って
ゆうやけ子どもクラブは1978年、ボランティア活動から始まりました。保護者や活動に賛同する市民たちが行政に働きかけ、補助金や施設確保に奔走。今は3カ所の施設に、小学生から高校生約70人が通っています。
2012年の児童福祉法改正で、障害児の放課後活動を行う施設は「放課後等デイサービス」として国の制度に位置付けられました。ところが18年4月の報酬改定で、障害の重い子どもが半数未満の施設は報酬が大きく減らされることに。同年10月時点でこうした施設が全体の8割におよびました。
ゆうやけは大幅な報酬減を免れたものの、村岡さんが副会長を務める「障害のある子どもの放課後保障全国連絡会」の調査では、職員の賃金を削る、非常勤職員の人数を減らすといった対応や、閉鎖に追い込まれた施設もありました。
また、国の人員配置基準は、子ども10人に対し、職員2人以上ですが、「子どもたちの個性に合わせて活動するには全く足りない」と村岡さん。ゆうやけでは子ども10人に対し6、7人の職員を配置しており、基準を上回った分の人件費は、職員加配の加算があっても不十分なため、バザーやコンサートの収益や寄付でまかなっています。「多くの人が、こうした実情を知らないと思う。障害のある子どもたちの置かれた現状を知ってもらうために発信していくことが必要」と映画への期待を語ります。
村岡さん「ゆったりと見守る大人のゆとりが子どもの安心感に」
村岡さんが映画の中で最も印象に残ったのは、誰ともまじわらず、積み木ばかりしていた小学4年のヒカリくんが、フォークダンスに加わった場面。部屋の隅で遊んでいたヒカリくんが仲間に視線を送ったり、相撲をしているところに近づいたりと、次第に他人との距離を縮めていく姿が画面から伝わってきます。
「子どもたちは一見、周囲と関係なく行動しているように見えますが、外の世界と一生懸命闘っている」と村岡さん。他人と付き合うことへの不安から、ヒカリくんの積み木のように物の世界に没頭している子どもの葛藤を思うといじらしい、とも。ゆったりと見守る大人のゆとりが、子どもの安心感を生み、「他者との境界が緩んでいく」と解説します。
自閉症の次男支えてくれた放課後施設
完成した映画を見て「これをぜひ世に広めたい」と立ち上がったのが飯田さんです。地元の世田谷区で、「優れたドキュメンタリー映画を観る会」を20年にわたり主宰してきました。
飯田さんの次男(31)は自閉症で、言葉による意思疎通が苦手です。次男は中学2年から、「ゆうやけ」と同じように子どもたちが放課後を過ごす区内の施設「わんぱくクラブ」に通っていました。映画を見て、特別支援学校高等部時代に教員から体罰を受けた際に、クラブの職員たちが心の傷の回復に寄り添い、励ましたり叱ったりしてくれた道のりを思い出したといいます。「見ていて涙が止まらなかった。障害の有無にかかわらず、子どもは社会に支えられて育つことを実感できる映画です」