心愛さん父、あす初公判 DVと虐待の根源は「加害者が”心の傷”に閉じ込めた怒り」

太田理英子 (2020年2月20日付 東京新聞朝刊)
 千葉県野田市の小学4年栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=を虐待の末、死亡させたとして、傷害致死罪などに問われた父親勇一郎被告(42)の裁判員裁判初公判が21日、千葉地裁で始まる。なぜ実の娘に執拗(しつよう)な暴力が向けられたのか。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の加害者に向き合う専門家は、加害者自身が心に傷を抱えるケースが多いとし、「暴力の根源を克服しないと虐待はなくならない」と訴える。

「親に大事にされた記憶がない」と打ち明ける男性(左)の話に耳を傾ける松林三樹夫さん=静岡県藤枝市で

「箸の向きが逆」「風呂が冷たい」妻を殴る蹴る

 昨年12月上旬、心理カウンセラーの松林三樹夫さん(68)は、静岡県藤枝市の自宅で男性(27)と向き合った。「最近はカッとなって手を出すことはないです。妻が過去のことを責め始めてつらいけど」。明るく語る男性に、松林さんは「奥さんがあなたを信頼するようになった証拠。だいぶ変わってきましたね」とうなずいた。

 箸の向きが逆、風呂の湯が冷たい。約4年前から、思い通りにならないと怒りが込み上げ、妻に殴る蹴るの暴行を加えるようになった。矛先は長女(3つ)にも向かい、駄々をこねる長女の頭をつかんで浴槽に沈めた。「やりすぎだと分かっているのに、感情を抑えられなかった」。昨年初め、妻と子は家を出た。

事件が自分と重なり「このままでは殺してしまう」

 虐待事件の報道を見て、自分と重なった。「このままでは子どもを殺してしまう」と昨年2月に松林さんを訪れた。生い立ちを聞くと、男性は幼少期に母親から日常的に体罰を受けていた。松林さんがこの10年で会った加害者約220人の大半は、親などから体罰や暴言、強い束縛を受けて育っていた。「怒りを閉じ込め、大人になり家庭で支配的立場になった途端、暴力として吐き出している」と分析する。

 カウンセリングでは、自分と、過去に自分を傷つけた相手の一人二役を演じてそれぞれの立場で対話させるなどして感情を吐き出させる。男性は、心の傷が自分の考え方や暴力的行動につながっていることを自覚するようになった。

刑罰では解決しない 暴力克服のプログラムを

 男性は現在、怒りを抑える方法を学ぶ。変わり始めた姿を信じ、妻子は戻ってきた。子どもにいらつく時はあるが、「手を出せば、この子も同じことをする大人になってしまうと自分に言い聞かせている」。

 松林さんは、刑罰や子どもの保護だけでは、虐待の解決にはならないと考える。「加害者が暴力を克服するためのプログラムと、その担い手の育成が必要。そうでなければ、また同じ事件が繰り返される」

心愛さんの父・勇一郎被告 判決は3月19日

 栗原勇一郎被告の第12回公判前整理手続きは19日、千葉地裁であった。21日から始まる裁判員裁判は犯行に至る経緯や犯行状況が主な争点で、判決は3月19日午前11時から言い渡される見通し。

 起訴状によると、昨年1月22~24日、心愛さんに食事や十分な睡眠を与えずに浴室で立たせ、冷水シャワーを浴びせるなどして死亡させたとされる。母親(33)に対する暴行罪も合わせて審理される。

 勇一郎被告の暴行を制止しなかったとして傷害ほう助罪に問われた母親は、懲役2年6月、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決が確定している。

コメント

  • 腑の連鎖を気が付かない本人は悲劇的です。育った環境が異常だと又同じ事を当たり前のように暴力に執着する。 少しでも愛され、誰か寄り添い成長を見守れば少なくともこんな大人にはならないと感じます。
     
  • 加害者が治療されるべき、という考え方が日本には欠落しており、非常に共感しました。 日本には、精神カウンセラーを受ける習慣がなく、自分は正常であると思い込んで皆生活をしています。DVや虐待だけでなく、