発達障害の子どもと療育の専門家をつなぐマッチングサイト「meete」 個性を伸ばし、孤立しやすい親を支援

蓮野亜耶 (2021年8月26日付 東京新聞朝刊)
 発達障害のある子どもと、発達を促す療育の専門家を結ぶマッチングサイト「meete(みーて)」。その子に合った療育を自宅で受けられるようにする仕組みだ。開設から1年、支援の輪は少しずつ広がっている。精神保健福祉士などの資格を持つ運営代表者の柳谷智子さん(42)=兵庫県西宮市=は「子どもの個性や人と関わる力を伸ばし、孤立しやすい親への支援にもつながれば」と願う。

「さまざまな人に療育に関わってほしい」と話す柳谷さん=名古屋市で

運動、音楽…多分野のサポーターを紹介

 絵画、運動、書道、音楽…。「みーて」では、さまざまなジャンルの支援者「サポーター」が紹介されている。柳谷さんが面接審査した人のみを掲載。施設などで療育に携わった経験のある人が多く、子育てに関する相談も受け付けている。

 利用者はサイトで登録後、希望する条件のサポーターを検索し、直接メールでやりとりして契約する。登録は無料。サポーターへの基本料金は1時間につき2000円ほどだ。現在は全国各地の子ども140人が登録。サポーターは70人で、うち20人が実際に訪問療育を行っている。

「家族への支援」「自宅で療育」の思い

 柳谷さんが「みーて」を立ち上げたのは昨年9月。2つの出来事がきっかけだった。1つは、以前勤めていた名古屋市内の放課後等デイサービスで、担当していた児童が他の子の物を取り、その後退園してしまったこと。背景を探ると、その児童の母親が幼い弟たちにかかりきりだったことが分かり、「もっと家族への支援があれば」と思うようになった。

 もう1つは注意欠陥多動性障害(ADHD)の姉が10年近く自宅で電子オルガンを習っていたことだ。集団行動は苦手だったが、オルガンを弾く姿は楽しそうで、社会人になっても続けている。「子どもが安心できる場所で個性を伸ばせる」。そんな思いが合わさり、自宅で療育が受けられるマッチングサイトの構想を膨らませた。

 専門的な資格や療育の経験がない人でもサポーターになれるよう、オンラインで発達障害や療育について学べる講習も開いている。柳谷さんは「これまでの子育てなどの経験が子どもたちの成長に役立つ。ぜひ療育する側に回ってみて」と呼び掛ける。

自閉症児の母が実感 「自立につながる」

 平日の夕方、名古屋市昭和区の橋本驍(たける)君(11)が元気に玄関のドアを開けて小学校から帰ってきた。サポーターの安藤喜美恵さん(60)の横にスッと座り、ゲームを始める。驍君は初対面の安藤さんにゲームの内容を教えたり、「スマホで動画を見せて」とお願いしたり。途中でシャワーを浴びに行くと、安藤さんは「ちゃんと自分で体を拭いて着替えも用意できるのね」と感心した様子だった。

驍君(中央)とスマホを使って遊ぶ安藤さん(右)。春美さんはそばで驍君の表情などを見ていた=名古屋市で

 驍君は自閉症で、感情を言葉でうまく表現できず、トイレが1人でできない。さらに年明けに妹が生まれたことで、母親の春美さん(39)は「これまでと同様に息子と接していいのか」と悩み、「みーて」で出会った元特別支援学校教員の安藤さんに相談。安藤さんが定期的に訪問して驍君と関わりながら療育の方針を考えていくことになった。

 驍君は昨年11月から、別のサポーターに絵画や工作も習っている。「以前より言葉が増えた。家族以外の前ではかっこつけるとか、普通の子と同じだなと知ることもできた」と春美さん。さまざまな人と接することが自立にもつながると考えている。「いろんな人と協力して生きることも大切。この療育も親以外の力を借りる練習になるかな」