児童養護施設から巣立つ若者たちの「困難の背景」を知ってほしい 周囲の大人ができることは? さいたまでシンポジウム

出田阿生 (2022年9月14日付 東京新聞朝刊)

当事者でもある5人が体験をふまえた意見を交換したシンポジウム=さいたま市の埼玉会館で

 虐待や貧困で親元から離れ、施設などで育った若者が社会に出た時の支援について考えるシンポジウムが9日、埼玉会館(さいたま市)で開かれた。児童養護施設で育った俳優の古原靖久(ふるはらやすひさ)さん(36)、ミュージシャンの矢野デイビットさん(41)らが登壇。深刻な体験を語りながらも軽妙なトークで会場を沸かせ、「厳しい環境で育つ子どもがいて、社会に出て困難に直面する。その現実を知る人が増えれば、少しずつ優しい世界になっていく」と訴えた。

高い離職率 虐待のトラウマも

 若者の自立を支援する一般社団法人コンパスナビ(さいたま市浦和区)が、困難を抱える背景を理解してもらおうと主催した。

 コンパスナビによると、施設を出た若者の高卒就職率は6割で、全国平均の約3倍。就職しても2年後の離職率は約4割と高い。虐待のトラウマ(心的外傷)があるため、一人暮らしをすると心を病みがちになる。住み込みの就労も多いが、仕事を辞めると家まで失う。お金の管理など生活知識が乏しく、社会に出てすぐにつまずいてしまう。

古原靖久さん

 シンポにはゲスト2人のほか、児童養護施設出身者の声を動画発信する「スリーフラッグス」のブローハン聡さん(30)、山本昌子さん(29)、西坂来人(らいと)さん(36)が司会役で参加し、それぞれの体験や意見を語った。

「普通の子として接してほしい」

 NHKの情報番組「あさイチ」でリポーターを務めるなど、映像や舞台で活躍する古原さんは「会えない母に僕は元気だよと伝えたくて、本名で芸能活動を始めた」と明かした。母は16歳で古原さんを産み、19歳で離婚。古原さんは就学前に児童養護施設に入った。母との面会は小学5年で途絶えた。気付いた時には亡くなっていたという。

 当時は子どもを厳しく管理する施設の方針があり、「殴られて眼鏡を壊されたり、悔しい思いをしながら育った。小学生の時は放課後も学校になるべく居残った」。退所直前まで進路が未定だったため「住み込みの新聞販売店の仕事を用意してある」と職員に言われた。「(施設側の)思い通りにはならない」と、以前からスカウトされていた芸能界に入った。戦隊ヒーロー番組の主役を務めた時、「ヤスみたいになりたい」と施設の子らに言われ、初めて人に認められた気がしたという。

 「周囲の大人にできること」を会場から質問された古原さんは「厳しい環境で生きる子どもがいることを知ってほしい。悩みを抱える子は見た目では分からない。話を聞いてあげるだけで救われるし、『普通の子』として接するのが一番だと思う」と語った。

社会での苦労 事前に学びたい

 もう一人のゲストの矢野さんは、日本人とガーナ人の両親の間に生まれ、6歳で来日。8歳から18歳まで施設で育った。「肌の色が黒いといつか必ず差別される。それならば子どもの時から差別の現実を教え、人種が違っても同じ人間だとシンプルに考える心構えをしたい」と指摘、「施設から社会に出る時にどんな苦労があり、どんな知恵が必要なのか、退所の前に学びたかった」と語った。

矢野デイビットさん

 親代わりの年上の友人たちが人生経験をさせてくれたという矢野さん。「友人たちに恩返ししようとして怒られ、自分も下の世代に何かしろと言われた。優しさは見えないところでつながっていくんだと思った」と振り返った。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月14日

コメント

  • 若者も老人も弱者もどんな境遇にも負けない強さと一生懸命頑張って前向きに生きる事は素晴らしい宝物♥負けない強いHeart♥に「有り難う」🙏
    ゆりちゃん 女性 60代