虐待された子どもを、わたしたちが支援できる。「こどもギフト」誕生 資金難の施設に寄付を
女性タレントら5人のチーム「こどものいのちはこどものもの」が企画
「こどものいのちはこどものもの」は東京都目黒区で今年3月、5歳の女の子が両親からの虐待で死亡した事件を受けて結成。イラストエッセイストの犬山紙子さんの呼びかけに応じ、タレントの真鍋かをりさん、福田萌さん、ファンタジスタさくらださん、ミュージシャンの坂本美雨さんが加わり、5人で活動しています。
チームはこれまでに、ネットで集めた約5000人の意見を基にした虐待防止策を厚労省に提出。さまざまな理由で家庭で暮らすことができない子どもの社会的養護を担う児童養護施設や支援団体などから話を聞く中で、多くが資金難から施設改修ができなかったり、子どもや親に必要な支援をできなかったりする実情に触れ、今回の企画を思い立ちました。
犬山さんは「どの施設も寄付や補助金に頼っており、施設の老朽化による改築や、特別なイベントは借金をしなければまかなえないケースもあります。子どもが受けるべきカウンセリングが、人員不足でできていない状況もあり、子どものケアが十分になされていないことも多々あることが分かりました。虐待を受けて保護された後も、子どもたちの置かれた環境は決して良いものとは言えません」と今回の企画に取り組む動機を話しました。
「こどもギフト」はインターネット上のクラウドファンディングサービス「Readyfor(レディーフォー)」に特設ページを設けています。第1弾として、
- 児童養護施設「星美ホーム」(東京都北区)で、行事を開くためのホールを再建する費用
- 児童養護施設「おさひめチャイルドキャンプ」(長野県飯田市)の建て替え費用
- 義務教育を終えた15歳から20歳までの子どもたちが働きながら生活する自立援助ホーム「みんなのいえ」(千葉県市原市)の入所者の旅行費用
- 虐待をしてしまった親の心身の回復を促すプログラムを全国に広げたいと考えている認定NPO法人「Living in Peace」への活動費
など、6つの事業について寄付を募ります。期間は12月25日まで。各事業ごとに目標金額(50~200万円)が設定され、目標に到達した場合のみに資金が提供される仕組みです。
ミュージシャン坂本美雨さん「積極的に手を伸ばして」
「こどものいのち」のメンバーで、ミュージシャンの坂本美雨さんは「助けが必要な人は助けを求める声を一番上げづらいということを感じています。周りにいる私たちはそれを気にしているだけではなく、積極的に手を伸ばす必要があるんだということも。何かしたいと思っている多くの人が積極的に手を伸ばし、子どもたちと直接的につながったという実感を持ってもらえたら」と呼びかけました。
「子どもや親のために活動している団体のことを知ってもらう機会にもなるはず。継続的に必要な団体に寄付を届けていきたい」と犬山さん。今後、第2弾、第3弾と企画をつなげていく予定です。
「子どもたちのことを知ってもらう機会に」 養護施設や支援団体が語る支援の必要性
「気兼ねなく友達を呼べる居場所に改修したい」
「おさひめチャイルドキャンプ」の西村武園長は、築40年近く経った施設で雨漏りや壁の亀裂が発生している現状を説明。「児童養護施設は子どもたちが力を蓄え、自立していくための場所。彼らの家を、より安心して過ごせる場所に、そして気兼ねなく友達を呼べるような居場所になるように改修したい。施設の子どもたちはもちろん、退所した子が(自分の)赤ちゃんを連れて家族とともに顔を出したり、地域の子にも寄り添ったりできる場所にしたい」と協力を呼びかけました。
92人の子どもたちが暮らす星美ホームの女性スタッフは「児童養護施設と聞くと、かわいそうとか閉鎖的というネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれないが、実際は笑顔がたくさん集まる明るく開放的な場所です。でも、笑顔いっぱいの子どもたちも私たちには想像できないくらい大きな傷を抱えているのも事実です」と話しました。夏祭りに浴衣を着せてあげると「浴衣が着られる日が来るなんて!」との声が上がったり、おんぶをせがまれたので職員がしてあげると怖がって、「おんぶとか抱っこってどうやってされたらいいの?」と聞いてくる子もいるそうです。
ほめられた経験の少ない子に、自信とぬくもりを
「親に会いたくても会えない子、会えなくてもずっとずっと信じて待っている子がいたり、親のことを嫌いになりたくてもなれなくて葛藤する子がいたり。それでもみんな今笑顔で過ごして一生懸命前を向いています」。星美ホームでは、運動会などの行事や地域との交流などに使っているホールが老朽化。ホールは「生活の場」として認められず助成金が出ないため、再建には1億円以上のお金がかかります。「施設にやってくる子は励まされたり、ほめられたりした経験が少なく、何かにチャレンジする勇気をなかなか持てない。そんな彼らが行事を通してチャレンジを積み重ねて自信を付けたり、交流を通して人のぬくもりを知っていく場所が必要なことを知ってほしい」と訴えました。
2年前にできた自立援助ホーム「みんなのいえ」には現在、15歳から20歳までの男の子5人が入居しています。運営するNPO法人「光と風と夢」の小倉淳代表は2年間彼らに伴走してきて「思い切り遊んだことがない子がたくさんいる」ということに気がつきました。「一緒に出かけようと呼びかけると、富士山に行ってみたいとか、レジャー施設のようなところに行ってみたいとかいう声が出ます。私たちが当たり前にやっていることが彼らにとっては当たり前じゃない。これまでのしんどかった、つらかった経験よりもこれからを大事にできるような経験をしてもらいたいという思いで今回のプロジェクトに参加しました」と話しています。
虐待してしまう親のトラウマをケアしたい
認定NPO法人「Living in Peace」は今回、虐待してしまった親の回復支援のための資金を調達したいと考えています。中里晋三代表理事は「児童養護施設で生活する子どもの多くは小学校入学前に施設に入り、多くは4年、5年を過ごします。親と最も一緒にいたい時期に離れて生活するつらさを訴える子どもの声を聞いてきました。一番大切な子どもの幸せを実現するためには、虐待してしまった親が回復して、もう一度子どもと暮らせることが絶対に必要です」と訴えます。
虐待してしまう親の背景には、自身も虐待を受けてきていたり、DVの被害者であったりすることが多いほか、経済的に困窮していたり、孤立していたりすることが多くあるといいます。「いろいろなストレスの中で、悲しみやつらさが子どもに向いている、それが虐待なのです」と中里さん。「MY TREEペアレンツ・プログラム」という親のトラウマをケアすることが中心となるプログラムは、現在全国12カ所で実践され、1000人以上の親を支援してきましたが、まだ全国どこででも受けられるプログラムにはなっていません。中里さんは「虐待してしまっても過去の傷にきちっと向き合うことで親は変われるということを知ってほしい。このプロジェクトを通じて実施数を増やしていきたい」と期待しています。
こどものいのちはこどものもの × Readyfor 社会的養護啓発プログラム「こどもギフト」
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