「赤ちゃんはママがいい」…それって本当? 父親の育児は”迷惑”ですか?
「お母さんのぬくもりは、やっぱり違う」自民党幹事長代行・萩生田光一さん
「ママがいい」は、政策的な話ではなく、講演の中で柔らかい笑いを誘った部分でした。子どもも3歳くらいになれば「お父さんとお母さんのどっちが好き?」って聞かれると気を使って「お父さんかな」と言うかもしれないけれど、「ゼロ歳の赤ちゃんはそりゃママがいいに決まってますよ」と。私は子育ては夫婦の力を合わせてやるものだと思っているし、男性の育児参加が不必要とか、育休はいらないなんて毛頭思っていません。
でも、やっぱり乳児期はお母さんに負担がいきがちです。赤ちゃんにとっては、お母さんのぬくもりっていうのは、父親の感じとはやっぱり違うんだろうと思っています。だから、男の育児とか言葉で言うのはかっこいいけれど、女性に負担がかかっている現実を支える政策も同時に考えていかなくてはいけないのではないでしょうか。
出産や授乳は代われないので、それを男性がどうサポートするかは考えなくてはなりませんが、男もまったく平等にやれとか、代われとかいう議論にくみするつもりはありません。もちろん、父子家庭のお父さんや、今、育児に奮闘するお父さんたちには大いに頑張ってほしいと思っていますよ。
私が伝えたいのは、乳児期のひととき、お母さんが安心して休み、子育てできる社会であるべきだということです。育休制度はまだ不十分ですが、ゼロ歳児保育が足りないのは、本当は1歳まで育休を取りたくても、切り上げないと入れない「席取り入園」になっていることや、職場で不利益を受けるのが心配で、早めに入園させる家庭が多いことも背景にあります。
私の地元・東京都八王子市では、ゼロ歳児保育に1人月額約35万円かかります。ゼロ歳で預けずに済めば、園の経営を圧迫しないようにした上で、1歳からの入園を保証することもできると思います。女性が育休後もキャリアを積んでいける職場環境など働き方の改革や、入園時期の柔軟化なども議論する必要があります。
私にも今は成人した娘と息子がいます。支援者の方から勧められた布おむつを替えたり、洗ったりしたことを思い出します。今も卒園式などのあいさつでは「運動会の場所取りだけで、父親やったつもりではだめですよ。子どもの話をよく聞いてあげてほしい」と話しています。
萩生田光一(はぎうだ・こういち)
1963年、東京都生まれ。八王子市議、都議を経て、2003年に衆院議員。現在5期目。文部科学政務官、内閣官房副長官などを歴任。東京五輪・パラ組織委理事も務める。
「”ママがいい”は過ごす時間の表れ」社会学者・藤田結子さん
萩生田さんの発言に接して感じたのは、子育ての中心世代である30代の人たちのライフスタイルや価値観、それに社会経済状況は、50代が子育てしてきた時代とは全く違うのに―ということです。賃金が上がらず、世帯収入は増えない中で、共働きは当たり前ですし、夫婦のありようも変わっています。
イクメンという言葉が広がり「男性も育児をするべきか」という調査に男性の6~7割が「そう思う」と答えます。でも、実際には平日の家事や育児時間は少ない。やりたい気持ちはあっても、長時間労働や日本企業独特の評価制度などに縛られ、できない男性が多いからです。
まだマジョリティーにはなっていませんが、ゼロ歳から保育園に入れ、妻と育児を分担して何とか頑張っている男性は増えています。私は、家事・育児と仕事の負担を一人で抱えるお母さんたちの実情を「ワンオペ育児」という言葉で世に伝えましたが、今はお母さんだけでなくお父さんも葛藤しています。
発達心理学などの研究でも、子どもが愛着を抱くのは母親だけでなく、複数の大人と愛着関係を築くという知見が出されています。「ママの方がいい」という発言は、お父さんたちの努力や葛藤を無視し、エビデンスも重視していません。
子どもが「ママがいい」と言うとすれば、母親の方が育児の負担が大きく、子どもと過ごす時間が断然多いことの表れではないでしょうか。男性の育休取得率はようやく5%で、そのうち半分はたった5日未満です。赤ちゃんの時に育児を一方が担ってしまうと、その役割が固定しがちです。育休を取るのは圧倒的に女性が多い中、「保活」やその後の子どもの世話もすべて母親の仕事になっていってしまう、というケースがとても多いのです。
もともと平日に育児をしない男性は、仕事時間が減っても、家事・育児の時間は増えないといった調査結果もあります。夫婦で収入の低い方が、育児や家事を担うことになりがちで、パートなど非正規雇用の女性が多いために育児負担が偏るのも実態です。
政府は女性活躍を掲げていますが、こうした性別役割分業が変わらなければ、本当の意味で活躍できません。子育て政策を担う人たちには、そのことを理解してほしいと思います。
藤田結子(ふじた・ゆいこ)
東京都生まれ。明治大商学部教授。専門は社会学。英ロンドン大で博士号を取得。参与観察を用いて、フィールド調査をしている。著書に『文化移民』『ワンオペ育児』など。
「男性の育児参加は”1番ピン”」父親支援NPO代表・安藤哲也さん
3人の子どもがいます。核家族の共働きなので、子育ては夫婦で分担してきました。もともと仕事中心で、子どもはそんなに好きではなかったけど、母親に家事や育児を任せきりだった自分の父親のようになりたくなかったし、育児を通じて違う世界が見える予感がしたのです。
娘がゼロ歳の時に絵本を読み聞かせると、反応してくれるのがうれしくて。「今日も早く帰って読みたいな」と思うから、働き方を変えました。会社員時代には、小学校のPTA会長もやりました。子どもが通う学校や地域を良くしたいじゃないですか。学校や地域とつながり、楽しさや発見がありました。12年前には父親の育児支援の団体をつくり「父親であることを楽しもう」と発信しています。
この10年で、男性の育児に対する価値観は大きく変わりました。今の30代以下は家庭科が男女共修になった世代。子どもが生まれたら男も育児-という考えが根付いています。企業にも男性の育休取得を後押しする空気が出てきました。一方で、育児をしたくても、職場の理解がなくできないという人はまだ多い。育児と仕事の両立を応援する上司「イクボス」を増やす活動にも力を入れています。
「やっぱり子どもはママがいい」と僕自身、ずっと言われてきました。だけど、子育てを楽しみ、成長する父親たちの姿が、その反証になると思います。
それに、母親の孤立や産後うつも社会問題となっている今、父親が育児をしないという選択肢はないですよね。乳幼児期に父親ならではの育児はほとんどないと思います。一緒に日々の育児や家事に取り組みつつ、ママを精神的に支えることがパパの役目です。乳幼児期こそ父親が積極的に関わり、子どもと信頼関係を築くことが大切。僕の経験では、関わっていると、思春期になった子どもの問題行動の対応も軽く済みました。
男性の育児参加は、ボウリングでストライクを取るために倒す「1番ピン」だと考えています。倒さないと、女性活躍や少子化対策、働き方改革も進まない。仕事も育児も本気でやろうとする男性は、時間の有効活用や体力の配分などを考えるし、地域や社会の問題に気付き「市民」として成長します。子どもを通して社会を見る父親が増えれば、未来をより良くできるはずです。
安藤哲也(あんどう・てつや)
1962年、東京都生まれ。NPO法人「ファザーリング・ジャパン」代表理事。厚生労働省の「イクメンプロジェクト」推進委員会顧問。20歳、17歳、10歳の1女2男を育てる。
萩生田氏が5月、乳児期の育児について「ママがいいに決まっている」「言葉の上で『男も育児だ』と言っても、子どもにとっては迷惑な話かもしれない」と発言し、批判が噴出した。政府は2020年に男性の育休取得率を13%にする目標を掲げるが、17年度の速報値では5%程度。8割を超す女性との差が著しい。夫は仕事、妻は家事・育児という意識やそれに基づく制度が背景にあると指摘される。
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