「女性の起業家」広がる支援&情報交換 キャリア中断をどう乗り越える?
「相談窓口は男性ばかり」…両立の悩みが理解されない
観葉植物が飾られ、お菓子や飲み物が用意された部屋。5月末、6人の女性が和気あいあいと意見を交わしていた。6人はエステサロンや塾などの経営者。ほとんどが起業して数年以内。「協働して事業ができないか」が会話の中心だ。
ここは、名古屋市中区に4月にオープンした交流スペース「Wits(ウィッツ)」。愛知、岐阜、三重の3県在住の女性が、起業や操業についての情報を共有し、家庭との両立といった悩みにも一緒に知恵を絞る。開設した社会保険労務士の伊藤麻美さん(48)は「働く場所や時間がある程度、自分で決められる『起業』という働き方は女性に向いている」と力を込める。
伊藤さん自身、社労士の事務所を開く際「どこに何を聞いたらいいのか分からず途方に暮れた」ことがある。起業を目指す女性たちから「相談窓口にいるのは男性ばかりで、家庭との両立について理解してもらえない」などの相談を受け、支援を始めた。
会員は、会費が月額5400円と7560円の2種類。種類によって異なるが、社労士や税理士、先輩起業家らへの経営相談、プロジェクトの企画会議や勉強会、ビジネスマッチングを図る会への参加などのサポートを受けられる。交流スペースは自由に使え、壁に紙を貼って情報を発信することもできる。
現在、会員はエステサロンやホームページ制作会社の経営者など、30~50代を中心に約20人。会員で、ビワの葉を使ったせっけんなどを製造販売する愛知県南知多町の林浩子さん(56)は「人脈が増えてビジネスチャンスが広がり、他の女性経営者と関わって刺激を受けている」と話す。
同様の支援は、全国に広がっている。国内9カ所で支援するエメラルド倶楽部(東京都新宿区)は、会員1200人向けに、ランチ会付きセミナーやビジネスプランコンテストなどを定期的に開催し、悩みや成功モデルを探り発信している。
女性社長は過去最多 壁は人材確保と資金
東京商工リサーチによると、同社に情報がある全国297万社で、女性社長は37万1232人(2016年末現在)。12.5%を占め、調査を開始した10年の1.7倍で過去最多だ。同社は「意欲のある娘に社長を譲る中小企業が増えたことや、自治体や金融機関などが起業支援の体制を整えたことなどが要因」と分析する。
ただ、事業の継続には壁もある。エメラルド倶楽部の代表理事、菅原智美さん(48)は多くの女性経営者が直面する問題として「人材の確保」と「資金調達」を挙げる。
起業する女性には、いったん退職して子育てが一段落した40代が多い。しかし、キャリアの中断により、責任の大きな仕事をしたり部下を持ったりする経験が少なく、組織づくりが苦手な人も少なくないという。起業後、後継者や「右腕」を育てられないことも多い。多額の借り入れに抵抗を感じ、事業拡大の好機を逃す例もある。
一方で、男性に比べ「好きなことをビジネスにする」人が多く、もうけが薄くても続けられるという強みも。菅原さんは「女性は消費者目線で、身近なことでビジネスを展開するのが得意。成功した女性社長のロールモデルが増えれば、より多くの女性の参考になる」と話している。