人手不足に悩む中小企業で男性育休を進めるには? 積極的な企業「将来への投資になった」 若手の確保に有効
変わるか男性育休
改正育児・介護休業法の成立を受け、企業には来年4月から、男性従業員に対する育休取得の働き掛けが義務付けられる。ただ、人手不足に悩む中小企業からは「代わりの働き手がいない」などと否定的な声も漏れる。法改正に先駆けて男性の育休推進に取り組む中小企業では、どのような工夫を重ね、成果を上げているのか。
「有給取得もゼロ」から働き方改革
従業員24人の建設会社「アース・クリエイト」(岐阜市)。外の現場で働く亀山敬吾さん(29)は、10月の第1子誕生を心待ちにしている。生まれたら、満1歳になるまで最大2週間取得が可能な社独自の特別有給休暇を取るつもりだ。「新生児の貴重な時間を一緒に過ごしたい」と喜ぶ。
男性の育休取得推進は、15年ほど前から取り組む働きやすい職場づくりの一環。社長の岩田良さん(41)は「社員の幸せが第一。良い環境を提供できれば、意欲も上がる」と話す。
同社ではかつて、年次有給休暇(年休)を取得する社員はほぼゼロ。不満は大きく、入社から5年以内にほとんどがやめていった。
業務を共有し、仕事を「見える化」
そこで、一から働き方を見直した。普段から社員二人がペアになり、業務内容や予定を共有。社全体の仕事の予定や進捗(しんちょく)もスマートフォンで見られるようにした。仕事量を「見える化」し、育休に限らず休みを取りやすくした。
社独自の男性育休は、2007年の導入以来、延べ14人が取得。入社後に短期間でやめる人はいなくなり、売上額は2011年度からの10年間で2.5倍に伸びた。岩田さんは「働きやすさを目指した結果、生産性も上がった」と話す。一連の取り組みは、厚生労働省の「イクメン企業アワード」などで表彰された。
取得率100%「サカタ」の取り組み
会社にこうした特別有給休暇がなくても、法律は子が1歳になるまで育休を取れると定めている。ただ、男性の取得率は8%(2019年度)に満たない。そうした中、100%を誇るのが、屋根の部品を製造するサカタ製作所(新潟県長岡市)だ。従業員154人のうち延べ22人が、平均20~30日間を取得している。
社員の残業時間の長さに危機感を覚えた社長が、男性の育休推進を宣言したのは2017年。ただ「当初は育休なんて、という雰囲気」と総務部長の樋山智明さん(54)は明かす。そのため、配偶者の妊娠が分かった時点で、上司との面談を通じて抱えている仕事を割り振ったり、表計算ソフトを使い、給付金などで収入がどれだけ補償されるかを説明したり。昨年までは育休を取った社員とその上司らの表彰もした。「会社として『取ってほしい』という姿勢を押し出した」という。
義務化に反対の業界 運輸、建設…
メディアに取り上げられるなど知名度が上がり、採用には困らなくなった。「育休推進は将来への投資になった」と樋山さん。「人手が足りないと思い込んでいるだけでは」と話す。
ただ、日本商工会議所などの昨年7~8月の調査では、全国の中小企業約2900社のうち、70.9%が「男性の育休取得の義務化に反対」と回答。特に、運輸、建設、介護・看護業など人手不足感の強い業界で割合が高かった。
中央大ビジネススクール准教授の高村静さん(54)は、中小企業が男性育休を打ち出すことは「働きやすさを重視する若手の確保に有効」と指摘。業務の属人化を見直す契機にもなり「介護や病気で休む社員への対応にもつながる」と話す。コロナ禍でテレワークが広まったように「まずはやってみて成功事例をつくることが大事」と強調する。
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