PTAは「自治のトレーニングの場」 政治学者・岡田憲治さんに聞く’’味方の作り方’’
〈インタビュー編・下〉
会長を引き受けて「だまされた」…旧態依然としたシステム
―PTA会長を引き受けた理由を教えてください。
息子が小学校のサッカークラブの指導や送迎で仲間の親たちにお世話になっている。お互いさまで、僕も何かお返しして、親として成熟したいという気持ちで受けた。
引き受ける過程で、おかしいと思うことがたくさんあった。次期役員を選ぶ選考委員会は独立組織なのに、現役役員の意向が反映されそうになったし…。一度は断ったけど、ずっと生活者目線で民主主義を考えてきた自分にとっては、この現場は生きたデータだと腹をくくったの。
―やってみて、どんなことを感じたましたか。
「とにかくいてくれればいい」と言われたけど、ものすごい数の会合がある実態に「だまされた」と思った。平日の午前10時集合で、区のPTA連合団体のただの儀式でしかない会合がある。メール一本で済む話なのに、紙ベースでやりとりするせいで、世帯・児童数をその区の団体に報告するだけで2度も学校に行く羽目になったり。書類を学校に取りに行って確認し、校長に聞き、副校長に聞き、書き込んで提出するために再訪し…。オフィスワーカーにはとても信じられないシステムが旧態依然としてある。
改革の足かせは「役員の単年度入れ替え」と「ポイント制」
―PTAが変わらないのは、なぜなのでしょうか。
わが校の場合、足かせになっているのは「役員の単年度入れ替え」と「ポイント制」です。1年だけ役員や委員を務めてやり過ごそうとする人たちが多いので、腰を据えた改革ができないの。一番楽なのは、「やることになってるから、とにかくやるの!」と、前年踏襲で何も考えずに目の前のことを「処理」すること。実は、変えるのが一番面倒くさいわけ。
ポイント制では、役員や委員を務めたり、活動に参加したりすると加点される。本来ボランティアであるPTAの活動を、「卒業まで何ポイント」と「義務」にしてしまう制度で、裏側では活動のスリム化を阻んでいる。時代的役割を終えた活動をなくそうとすると、「その活動でポイントをためようと考えている人がいるからできません」と反発を恐れる人がいて、スムーズに活動を減らせない。実に本末転倒以外の何物でもないでしょ?
ほめて、根回しして、味方を作る。職場では、やってるはず
―そこを突破するには、何が必要ですか?
無駄だと思う活動を頭ごなしに否定せず、感謝を忘れず、仲間をほめ、ねぎらい、きちんと根回しして、味方をつくるのが大事だと実感した。大人は、みんな職場では、やってると思うんだけどね。
正しいことをそのまま言えば、みんながついてくるわけじゃない。「誰も歓迎しない無駄な活動だからやめましょう」と言うと、その活動を頑張ってきた人は、自分を否定されたと思って心を閉ざしてしまう。「工夫して、より素晴らしい活動をするための議論の場を設けていただけませんか?」と、相手の心を開くような提案が必要。それって政治そのものでしょ?
―PTAに参加する意義は、どこにあると考えていますか。
PTAは自治のトレーニングの場ね。PTAは学校にあるけれど、学校じゃない。仕事はあるけれど、企業じゃない。生活の延長で、お金と安全以外の失敗は経験値になる、人々の最良の力をどう引き出すかを実践できるステージですよ。職場や家庭など、それぞれの持ち場へ帰った時に、その経験は大人として絶対に役に立ちます。
岡田憲治(おかだ・けんじ)
1962年、東京都生まれ。2018年から世田谷区立小学校のPTA会長を務める。専攻は現代デモクラシー論。「なぜリベラルは敗(ま)け続けるのか」(集英社インターナショナル)など著書多数。
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