宿題も定期テストも廃止 公立校の”当たり前”の改革者・工藤勇一校長の挑戦〈多様な学びの現場から・2〉
オンライン授業は「自律型・効率型」に転換するチャンス
4月中旬。新型コロナウイルスの影響で休校中の横浜創英中学・高等学校。生徒のいない教室で、中学2年生の担任教員がビデオ会議アプリ「Zoom」を使いホームルームを行っていた。始業式と入学式が中止になり、生徒と直接会えていない工藤校長も飛び入りで参加。「問題です。私の好きなサッカーチームはどこでしょう。1・鹿島アントラーズ、2…」。生徒たちは立てた指の本数で答えていた。
創英中で4月から始まった「オンライン授業」では、生徒はウェブ上の「学習室」にアクセス。同級生や上級生と、文字や音声で質問し合うなどして学習を進める。教員は「学習室」で見守り、必要があれば教科の質問に答える。
工藤校長はオンライン授業を、生徒が一斉に教員の話を聞く授業から、自分で学ぶ「自律型」や学びたいものを学ぶ「効率型」の学習に切り替えるチャンスだと考えている。生徒同士の学び合いにも期待する。
自主性を育てるため、生徒に体育祭を運営させてみたら…
3月末まで6年間、校長を務めた東京都千代田区立麴町中学校で、生徒の自主性を育てる上で必要なことは何かを突き詰めた。宿題、定期テストをやめ、単元ごとの小テストで理解度を測り、出題範囲を示さない年5回の実力テストで学力を確認できるようにした。
今春卒業した元生徒会長の新井晟矢(せいや)さん(15)は、体育祭の準備と運営を通じて、自分で考え行動する「自律」と、互いを認め対話する「尊重」の心が養われたと振り返る。
工藤校長からのミッションは「生徒全員が楽しめる体育祭を」だった。病気で走れない生徒もいる中で全員リレーを種目に入れるかを巡り、意見が分かれた。「どうすれば全員が楽しめるか」に立ち返り、仲間を抱っこしたり、騎馬戦のように上に乗せて運ぶリレーにした。「自分たちでつくり上げた達成感は大きかった」
新型コロナの終息が見通せない中、工藤校長は生徒のために、オンライン上の学びの場を整えていく。ただ、「集団でなければ学べないこともある」という。自身も自由な校風の高校で級友たちと競い、励まし合う中で自律の大切さを学んだ。「学校は人の人生を変える出会いがある場所だから」
こどもの日特集「多様な学び」を考える
今日は「こどもの日」。新型コロナウイルスの感染拡大で、休校が続く中、子どもの学びについての議論も活発になっています。子どもたちが自らやりたいと思う気持ちを尊重し、探求できる学びの場を記者が訪ね、「学校での一斉授業」だけではない「多様な学び」について考えます。
〈多様な学びの現場から〉
1・学校とは違う学び 子どもの「どうして?」の力を信じる、松戸の探求型スクール
2・宿題も定期テストも廃止 公立校の”当たり前”の改革者・工藤勇一校長の挑戦
3・外国籍の子どもが多い横浜市南区 休校で孤立しないよう、学習支援を続ける信愛塾
4・障害があっても、創作意欲は育つ 自分を丸ごと肯定される練馬のアトリエ
〈多様な学びを広げるために〉