通園バスにシートベルトを(2)「幼児バス」マークで注意喚起しても…現場は「あおられる」「高速道路で不安」
園長の証言「ライトやクラクションであおる車が多い」
横浜市にある幼稚園の園長は「子どもの命を預かる身としての悩み」を本紙に寄せた。通園バスに園児を乗せるため、待機場所にバスを寄せようとすると「ライトやクラクションであおる車が多い。大きな事故が起きなければいいなと危惧している」とつづった。
都内の30代母親は、子どもの通う幼稚園が高速道路を使い、通園バスで遠方まで宿泊保育に行った際、「不安だった」と明かす。「バスの運転手がいくら気を付けても、もらい事故で大惨事になる可能性はある。通園バスにもシートベルトがほしい」
国交省は義務化を検討したが「重傷事故は少ない」
国交省は11~12年度、幼児専用車のベルト義務化を検討したことがある。当時は03~08年の年平均で、6歳以下の94人がけがをしていた。重傷は6年間で4人、死者はいなかった。08年は幼児専用車千台あたりの負傷率が3.6人で、一般のバスと比べて10分の1だった。
このデータから「幼児専用車の死亡、重傷事故は極めて少ない」と結論。事故時に頭への衝撃を和らげる緩衝材を座席の後面に取り付けると決めたが、ベルトの義務化は見送った。幼児バスのマークによってほかの車に注意喚起でき、幼児はベルトの着脱が難しい、なども理由に挙げた。
「3~5歳児なら自分で着脱できる」との研究も
一方で、日本自動車研究所は17年、一般的な成人用のシートベルトでも、3~5歳児は自分で着脱できるとの研究結果を公表した。ベルトの有無で子どもがバスから降りる時間にほとんど違いはなかったと結論づけた。
横浜市の小児科医で、子どものけが予防活動に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan」理事長の山中龍宏さんは「死者がいないから、重傷が少ないからといって、防げる事故を防がないのはおかしい」と話す。
目黒区の「ヒーローバス」には特注の簡易ベルト
通園バスの安全性を高めようと、特注のベルトを装備するケースもある。東京都目黒区は、園庭がない保育所の園児を公園に送迎するため、昨年11月に導入した幼児専用車「ヒーローバス」に簡易ベルトを付けた。2年前に同様のバスを使った際、保護者から要望があったためという。
この簡易ベルトは、道路交通法が定めるシートベルトではなく、長さ30センチ、幅4センチほどの面ファスナー式。2人がけの座席に1つあり、2人で一緒に使う。担当者は「子どもが何かに興味をひかれて立ち上がったりすると危ない。ちゃんと座ろうとの意識付けの意味が大きい」と話す。
国交省のガイドラインでは、こうした簡易ベルトは「衝突時に幼児を十分に拘束できない可能性が高いため、安全性向上にはつながらない場合がある」としている。
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