「ひとり親世帯の相対的貧困率」50%→35%の数値目標設定が必要です 阿部彩・首都大学東京教授に聞く

上坂修子 (2019年12月31日付 東京新聞朝刊)
 親から子どもへの「貧困の連鎖」を断ち切ることを理念とした「子どもの貧困対策推進法」が2020年1月で施行6年となる。2019年11月には、今後5年間の対策の方針をまとめた新大綱が閣議決定された(記事はこちら)。子どもの貧困を巡る状況と今後の課題は何か。首都大学東京の阿部彩(あや)教授(貧困・格差論)に聞いた。

首都大学東京の阿部彩教授

教育費の軽減中心で生活面は改善されず

 -子どもの貧困を巡る状況は6年間で改善したか。

 「教育面で対策は進んでいる。限られた対象とはいえ、大学等の無償化や給付型の奨学金が導入された。だが主に教育費の軽減で生活面は改善されていない」

 -安倍晋三首相は子どもの貧困率が「大幅に改善した」と強調している。

 「景気状況が良くなったことで改善したのは確かで、それ自体は喜ばしい。ただ、いずれ不景気の時期が来る。政策的なセーフティーネットが何も拡充されていないので非常に心配だ。(この間)生活保護はカットされた。(低所得のひとり親世帯に支給される)児童扶養手当も大幅に拡充されたわけではない」

 -新大綱は既存の政策を確実に実行することなどが書かれている。

 「それは大綱に書かなくてもやるべきでしょう。大綱は現状でどこが足りないか提示し、今後5年間で取り組むべき課題について書くべきだ。その意味で、今後5年間の方向性を示すものとは言えない。『現状でいい』というメッセージが強く出されている」

見逃されている「ふたり親世帯」対策も

 -法改正、大綱策定の過程で、貧困率削減の数値目標も設定されていない。

 「少なくともひとり親世帯の相対的貧困率(2015年で50.8%)は数値目標化すべきだった。1985年の貧困率(54.5%)と3ポイントくらいしか違わない。30年間いろいろな政策をやっているが、変わっていない。経済協力開発機構(OECD)加盟国と比べても突出して高い。少なくとも35%くらいを数値目標化して、毎年がんがん下げていくべきだ」

 -どんな施策が必要か。

 「住宅の問題を政策として真剣にやる時期にきている。住宅費負担が非常に重い。異常に高い貧困率のひとり親世帯への対策としては、児童扶養手当を拡充すべきだ。貧困状態にある子どものうち、5割以上はふたり親世帯の子どもだ。ここに対する政策手段がない。ふたり親世帯の生活を安定させるために、より抜本的な所得再分配の方法を考えなくてはいけない」

あべ・あや

 米タフツ大フレッチャー法律外交大学院で博士号取得。国連、国立社会保障・人口問題研究所などを経て現職。著書に「子どもの貧困」(岩波書店)など。6大学共同で「子どもの貧困調査研究コンソーシアム」を立ち上げた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年12月31日