病気や障害がある子の「きょうだい児」の思いを絵本に 6歳の園児が母らと出版 兄を慕いつつ寂しさも
通院中の兄に母がつききり「なんでお兄ちゃんばかり?」
一歩ちゃんの兄四郎さん(14)は3歳の時に小児がんを発症。治療は終えたが、中学生の現在も自宅で週6日のホルモン注射を打ったり通院したりしている。後遺症と向き合う生活の傍ら、治療法研究支援のためチャリティーのレモネードスタンドを開くなど活発に活動してきた。
母の佳子さん(50)によると、通院時につききりで介助するなど四郎さんの対応に時間を割かざるを得ないことが多く、結果的に、甘えたい盛りの一歩ちゃんを十分見てあげられないことも少なくないという。
兄が立ち上げた、小児がん経験者と家族が集う「みんなのレモネードの会」に「子ども副会長」として名を連ねるなど、幼いながらも兄の病気を理解し後押しする一歩ちゃん。だが、兄の通院中に近くに住む祖母と留守番をすることもあり、時には「なんでお兄ちゃんばかり?」とすねてしまう。
医療的ケアが必要な子どもが増加 きょうだい児の支援も必要
近年医療技術の進歩により、医療的ケアを必要とする子どもが増えている。その兄弟姉妹で親の手が届きにくい「きょうだい児」に対する支援の必要性を指摘する声が高まっている。
四郎さんは2年前、自身の活動を踏まえ「ぼくはレモネードやさん」という絵本を出版した。これを見た一歩ちゃんが「ぼくも作りたい」と提案。佳子さんは、一歩ちゃんが大好きなチョココロネを題材に「きょうだい児」の思いを描くことを考えついた。母子で文章を練り、絵は親交があるイラストレーター川尻杏子さん(44)に依頼した。
主人公は「ぼく」。兄は小さい頃の病気で注射を打っていて、体も疲れやすいけれど「レモネードやさん」もやっているという設定だ。「ぼく」が好きなのはチョココロネで、ママと生地をこねておいしいコロネの完成を目指す。かまってもらえない寂しさを「あーつまんない!」という率直な言葉で表す場面もある。
佳子さんは「気を付けてはいるが、どうしても目が向かない時もある」と明かす。「頑張っている子だけでなく、周りに複雑な気持ちになっちゃう子がいることを、絵本を通じて伝えたいと考えた」。水彩や貼り絵で柔らかな絵に仕上げた川尻さんは「一歩くんは思っていることをちゃんと表現する。きょうだい児の気持ちを私自身が勉強しながら描いた」と振り返る。
一歩ちゃんは、照れながらも「みんなに読んでもらいたい」と笑顔で話す。税込み1650円で、生活の医療社のウェブサイトなどで販売中。