年間1000億円以上の休眠預金を子どものために コロナ下で学習格差が深刻化、全国に広がる支援
普段でも孤立しがち コロナで一層不安
「聞こえない子どもは普段でも孤立しがち。コロナで不安は一気に高まったと思います」
聴覚障害のある子どもたちの居場所づくりや学習支援などに取り組むNPO法人「Silent Voice(サイレントボイス)」(大阪市)の井戸上勝一さん(25)は、昨年来の日々をこう振り返る。
サイレントボイスは2017年から、放課後の居場所「デフアカデミー」を運営。言葉の学習のほか、子ども同士やスタッフとの交流を通して、学校や家庭だけではできない体験をしてもらう工夫を重ねている。スタッフも聞こえる人、聞こえない人、手話ができる人などさまざま。聴覚障害に特化した居場所は珍しく、大阪府全域から約150人が利用登録している。
聴覚障害児 マスクで口元が見えずに…
「聞こえない子どもは学校などで議論に参加できないことが多い」と井戸上さん。「ここでは、手話でも口語でも筆談でも、さまざまな手段を工夫してコミュニケーションを取り、主体的にイベントをつくりあげるなどの体験も大切にしている」と話す。
言葉の習得が難しい聴覚障害児にとって、コロナ禍で直接の交流機会が減ったり、マスクで口元が見えなくなったりした影響も大きい。サイレントボイスは、オンラインで言葉の授業などにも取り組んでいる。
休眠預金の助成事業 277団体が申請
活動の充実を資金面で支えてほしいと、サイレントボイスが応募したのが休眠預金を活用した助成事業だ。クラウドファンディングサービスのREADYFOR(レディーフォー)と、子どもの貧困問題に取り組むNPO法人キッズドアが、コロナ下で深刻化する学習や体験の格差を埋める活動に取り組む団体などを対象に9~10月に助成先を募った。
休眠預金は預けた人が忘れたり、死亡したりして放置されたお金。2018年に休眠預金等活用法が施行され、金融機関から、政府などが出資する預金保険機構に移管されたお金は、民間の公益活動に使えるようになった。2020年度は約1400億円を移管、約75億円が利用された。移管後も預金者が金融機関に請求すれば引き出しは可能だ。
READYFORとキッズドアは今回、助成先を決める指定活用団体の「日本民間公益活動連携機構(JANPIA)」の資金分配団体に選ばれ、約3億5千万円の緊急支援事業を展開。延べ277団体から申請があり、ひとり親など困窮家庭の子どもたちに体験学習を提供する団体や、ヤングケアラーの学習支援などに取り組む団体など17の助成先が決まった。
助成金が”新たなチャレンジ”につながる
サイレントボイスも約1600万円の助成を受け、子どもが進路選択に向けて情報を集める際の支援事業などに活用する予定だ。井戸上さんは「新たなチャレンジに人や時間を振り向けられる」と喜ぶ。
JANPIA事務局長の鈴木均さんは「助成を受けた団体は全国で約600になり、制度の認知度は広がっている。社会課題の解決のため、休眠預金を有効活用してもらえるようにしたい」と話す。