この星に、戦争はいりません 絵本「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」に広がる共感の輪
敵軍からのメロディー 史実を基に
絵本の舞台は、開戦から5カ月後の1914年12月24日、イギリス軍とドイツ軍が対峙する前線。英軍の兵士たちが塹壕で休んでいると、独軍の方から歌が聞こえてくる。言葉はわからないが、メロディーは「きよし このよる」。両軍がさまざまなクリスマスの歌を歌い合う中、イブの夜は更けていく。そして翌朝、思いもかけないことが起こる。
ウクライナ侵攻を受けて最後を変更
「以前から戦争と人について作品にしたいと思っていた」という鈴木さん。だが、作品で悲惨さだけを描くことには抵抗感があったという。そんな中、友人との会話で「クリスマス休戦」について知った。前線で戦う敵同士の兵士たちが一時的に戦いをやめ、互いの家族の写真を見せ合ったり、食事をしたり―。戦場で実際にあった出来事だ。
「『戦争はいけない』という言葉ではなく、『隣の子と仲良くする』という日常の物語から、戦争に加担しない気持ちを伝えられるのではないか」。2月初め、制作に取りかかった。
あとがきの絵を描き始めた頃、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。当初、地球環境についての言葉で締めくくる予定だった最後のページは、青い地球を子どもたちが手をつないで囲むイラストに変更し、「この星に、戦争はいりません」という言葉を添えた。
言葉や宗教が違っても仲良くなれる
絵本の中で特に印象的なのが、両軍の兵士が笑顔でサッカーを楽しむ場面だ。兵士たちは銃を捨て、代わりに、上着を丸めてひもで縛った手製のボールを夢中になって追いかける。
サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会は、選手たちが健闘をたたえ合う姿も感動を呼んだ。「スポーツは戦いに勝ちたいという本能を満たしたり、癒やしたりする面があると思うが、敵同士が心を通わせるきっかけにもなる」と鈴木さん。クリスマス休戦を描いた今回の作品について、「言葉や宗教が違ってもスポーツや音楽、芸術などを通じて仲良くなれる。他者への愛と想像力が戦争をしないことにつながると、子どもたちに感じ取ってもらえたら」と願っている。
鈴木まもる(すずき・まもる)
1952年、東京都出身。鳥の巣研究家としても活躍。「ぼくの鳥の巣絵日記」で講談社出版文化賞絵本賞。主な絵本作品に「せんろはつづく」(金の星社)、「日本の鳥の巣図鑑全259」(偕成社)など。