この星に、戦争はいりません 絵本「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」に広がる共感の輪

(2022年12月24日付 東京新聞朝刊)

ドイツ軍の塹壕から聞き慣れた音楽が聞こえてきた(「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」(あすなろ書房)から)

 第1次世界大戦中の史実を基にした絵本「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」(あすなろ書房)に、静かな共感の輪が広がっている。5月に刊行され、東京すくすくでも6月の記事で紹介した鈴木まもるさん(70)の作品。東京新聞の「発言」欄にも読者から「孫が涙を浮かべていた」「平和を想像してみて」といった声が届いている。クリスマスイブの今日、奇跡のような実話から、平和について考えたい。

敵軍からのメロディー 史実を基に

 絵本の舞台は、開戦から5カ月後の1914年12月24日、イギリス軍とドイツ軍が対峙する前線。英軍の兵士たちが塹壕で休んでいると、独軍の方から歌が聞こえてくる。言葉はわからないが、メロディーは「きよし このよる」。両軍がさまざまなクリスマスの歌を歌い合う中、イブの夜は更けていく。そして翌朝、思いもかけないことが起こる。

「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」(あすなろ書房)の表紙

ウクライナ侵攻を受けて最後を変更

 「以前から戦争と人について作品にしたいと思っていた」という鈴木さん。だが、作品で悲惨さだけを描くことには抵抗感があったという。そんな中、友人との会話で「クリスマス休戦」について知った。前線で戦う敵同士の兵士たちが一時的に戦いをやめ、互いの家族の写真を見せ合ったり、食事をしたり―。戦場で実際にあった出来事だ。

 「『戦争はいけない』という言葉ではなく、『隣の子と仲良くする』という日常の物語から、戦争に加担しない気持ちを伝えられるのではないか」。2月初め、制作に取りかかった。

 あとがきの絵を描き始めた頃、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。当初、地球環境についての言葉で締めくくる予定だった最後のページは、青い地球を子どもたちが手をつないで囲むイラストに変更し、「この星に、戦争はいりません」という言葉を添えた。

言葉や宗教が違っても仲良くなれる

 絵本の中で特に印象的なのが、両軍の兵士が笑顔でサッカーを楽しむ場面だ。兵士たちは銃を捨て、代わりに、上着を丸めてひもで縛った手製のボールを夢中になって追いかける。

 サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会は、選手たちが健闘をたたえ合う姿も感動を呼んだ。「スポーツは戦いに勝ちたいという本能を満たしたり、癒やしたりする面があると思うが、敵同士が心を通わせるきっかけにもなる」と鈴木さん。クリスマス休戦を描いた今回の作品について、「言葉や宗教が違ってもスポーツや音楽、芸術などを通じて仲良くなれる。他者への愛と想像力が戦争をしないことにつながると、子どもたちに感じ取ってもらえたら」と願っている。

鈴木まもる(すずき・まもる)

 1952年、東京都出身。鳥の巣研究家としても活躍。「ぼくの鳥の巣絵日記」で講談社出版文化賞絵本賞。主な絵本作品に「せんろはつづく」(金の星社)、「日本の鳥の巣図鑑全259」(偕成社)など。