ウクライナ侵攻で翻訳絵本が相次ぎ出版「キーウの月」「戦争が町にやってくる」 平和だった生活との架け橋に

飯田樹与、長壁綾子 (2022年8月12日付 東京新聞夕刊)
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翻訳出版された2冊の絵本

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした翻訳絵本が相次いで国内で出版された。いずれも反戦を声高に訴える内容ではないが、静かに進む物語が、読み手に平和や世界のありようについて考えさせる。売り上げをウクライナ支援にあてる取り組みも始まっている。 

「キーウの月」利益は全額寄付

 「キーウの月は/ローマの月のように/きれいなのかな/ローマとおなじ月なのかな」。今月出版された「キーウの月」(講談社)は、イタリアの国民的作家であるジャンニ・ロダーリ(1920~80年)が約70年前にしたためた一編の詩を基にした作品だ。

 侵攻を受け、イタリアの出版社が今年4月、絵本作品として緊急出版。利益は全額、ウクライナ支援のため、イタリア赤十字社に寄付した。各国の出版業界にも翻訳出版を呼び掛けたところ、ルーマニアやギリシャ、スペイン、英国でも出版が決まった。

内田洋子さんも翻訳料を寄付

 日本では、ロダーリ作品を多数翻訳してきたエッセイストの内田洋子さん(63)が趣旨に賛同し、翻訳料は寄付する形で協力。日本版の装丁デザイン料や売り上げも、国際非政府組織(NGO)のセーブ・ザ・チルドレンに寄付する。

 インドからペルーへ、テヴェレ川から死海へ-。パスポートなしで旅する月は、等しく暖かな光を注いでいく。「お月さまは、昼間や新月の時ははっきりと姿は見えないけれど、いつでもどこでもそっといてくれる感じがしませんか? ロダーリさんも、落ち込んでいる時に寄り添ってくれるのはお月さまだと思ったのでは」と内田さん。「この本が、闇から抜け出す旅の切符になれば」

壊れやすい主人公たちが団結

 6月に日本語版が刊行された「戦争が町にやってくる」(ブロンズ新社)は、ウクライナ西部のリビウで活動する絵本作家のロマナ・ロマニーシンさん(37)とアンドリー・レシヴさん(38)が2015年に制作した絵本。前年、ウクライナ南部・クリミア自治共和国へのロシアの侵攻があった。

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もろい素材でできた主人公たちは戦争によって傷つくことに=「戦争が町にやってくる」の一場面、ブロンズ新社提供

 作品の舞台は、彩り豊かで美しい架空の町・ロンド。人々は、花を育て、家を建て、鳥や草木に話しながら楽しく暮らしていたが、突然「戦争」がやってくる。ガラスや風船、紙など壊れやすい素材でできた主人公たちは、それぞれの特徴を生かして仲間と団結し、ロンドを暗闇から救い出す。アンドリーさんは「人間は戦争の前には、とてももろい存在だと感じた。でも、どんなに弱い生き物でも戦争によって破壊されないと伝えたかった」と話す。

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作品が翻訳出版された日本へのメッセージを、オンラインで伝えるロマナ・ロマニーシンさん(右)とアンドリー・レシヴさん=ブロンズ新社提供

起きている戦争も見てほしい

 リビウでは空襲警報が日常化し、シェルターに避難しながらの暮らしが続いてきた。「(侵攻が始まって)最初の数週間は、絵を描いたり、デザインすることに何の意味も見いだせなかった」。だが、2人はシェルターでも、子どもたちが絵本を欲しがったり、読んだりする姿を目にした。

 今も多くの子どもたちが避難民となり、離れ離れの暮らしを強いられる家族もいて、「子どもたちのこれからの人生にどんな影響を与えていくのかわからない」と心配する。

 「絵本は平和だった生活との架け橋。子どもたちに静寂と安らぎを与えてくれる」。絵本の役割を強く感じ、今は新しい本の執筆にも取り組む。「日本の子どもたちにもこの絵本を読み平和について考えてほしい。ウクライナで実際に起こっている戦争のことも注意深く見てほしい」と願う。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年8月12日

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