「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」 絵本作家・鈴木まもるさんが込めた平和への願い

「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」(あすなろ書房)

 第1次世界大戦中の1914年12月24日から25日にかけて、ドイツ、イギリス、フランスの兵士たちがクリスマスを祝うために一時的に戦いをやめた「クリスマス休戦」。この史実を基に絵本を刊行した絵本作家の鈴木まもるさん(69)に話を聞いた。

敵の塹壕から聞こえたメロディー 

 作品のタイトルは、「戦争をやめた人たち-1914年のクリスマス休戦-」(あすなろ書房)。ヨーロッパをはじめ多くの国が巻き込まれた第1次世界大戦。開戦から5カ月後のクリスマスイブからクリスマスにかけての、イギリス軍とドイツ軍の前線が絵本の舞台だ。

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戦場で敵に向かっていく兵士たちを描いた場面

 ドイツ軍との一日中続いた銃の撃ち合いに疲れ果てたイギリス軍の兵士たちが、塹壕で休んでいると、ドイツ軍の方から歌が聞こえてくる。言葉は分からないものの、そのメロディーは「きよし このよる」。そして、イギリス軍の兵士たちも母国語で歌い始める。両軍がさまざまなクリスマスの歌を歌い合う中、クリスマスイブの夜は更けていく。そして翌日のクリスマスの朝、思いもかけないことが起こり…。

子どもたちの日常とつながる物語

 以前から戦争と人について作品にしたいと思っていた鈴木さん。だが、戦争を知らない自分が、その悲惨さを描くことはできないと感じていた。「本当の平和とは何かを、自分なりの形で絵本にしたかったが、なかなか思うようにいかなかった」と振り返る。

 転機となったのは、友人との会話で「クリスマス休戦」について知ったこと。前線で戦っていた敵同士の兵士たちが、クリスマスに歌を歌ったり、互いの家族の写真を見せ合ったり、食事をしたり、サッカーをしたり―。第1次世界大戦の戦場で実際にあったできごとだ。

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ドイツ軍の塹壕から聞き慣れた音楽が聞こえてきた

 「戦争はいけないと言葉で言うのではなく、『隣の子と仲良くする』という子どもたちの日常とつながる物語から、戦争に加担しない気持ちを伝えられるのではないか」と、今年2月初め、制作に取り掛かった。色鉛筆を使って柔らかなタッチで絵を描いたのは「人間の素朴さや人の動きがより伝わるような気がするから」。

ウクライナ侵攻で最後の絵を変更

 あとがきの絵を描き始めた頃、ロシアのウクライナ侵攻がはじまった。「まさかこんな大きな戦争が起こるとは」。当初、地球環境についての言葉で締めくくる予定だった最後のページは、青い地球を子どもたちが手と手をつないで囲み、その周りをさらに動植物たちが囲むイラストに変更し、「この星に、戦争はいりません」という言葉を添えて締めくくった。一番上の男の子と女の子はウクライナの民族衣装を着ている。

 暮らしの中で、子どもたちも戦争のニュースを聞き、どうしたらいいのだろうと考えることが増えている。「自分にできることは何か、一番大切なことは何かということを、絵本を通して感じてもらいたい。個として生きていれば、戦争をやめることができると思う。相手を思う想像力と、自分らしく生きるための創造力。ふたつの力がとても大事だ」と訴える。

鈴木まもる(すずき・まもる)

写真 絵本作家・鈴木まもるさん

 1952年、東京都出身。鳥の巣研究家としても活躍。この作品のカバーの折り返し部分には鳥の絵を描き、「絵本と鳥の巣は形は違うが、小さな命を育てるという役目は同じ。地球は人間だけのものではない」と話す。主な絵本作品に「せんろはつづく」(金の星社)、「日本の鳥の巣図鑑全259」(偕成社)など。

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なるほど!

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グッときた

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もやもや...

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もっと
知りたい

すくすくボイス

  • たかさん says:

    通勤途中の車中のラジオから「1914年…」と聞こえてきました。これは第一次世界大戦が始まった時ではないか、と、絵本の朗読を聴きました。兵士たちの声や表情が見えてくるような気がしました。再び戦争が始まった。どうするんだろう、どうなるんだろう。兵士たちは、空に向けて銃を放つようになったと。…よかった。

    銃よりも歌を。共に、スポーツを乾杯を。言葉ではなく心を。

    ロシアによるウクライナへの侵攻、国民の声も聞かずに決められていく国防費の増加…。いつの間にか繰り返される人間の愚かな行為が情けなく、たまらなく恥ずかしく感じる朝でした。

    名もない人たちの「美しい」行為が、花のように咲き誇る世の中になってほしい。私に今できることを一生懸命考えて、生きていこうと思いました。

    たかさん 男性 60代

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