埼玉県で広がるフードパントリー 先駆者の草場澄江さんに聞く 「つながる」ことが真の目的

近藤統義 (2020年1月15日付 東京新聞朝刊)
 子どもの貧困を巡る現場で今、企業や家庭で余った食品を集めて困窮世帯などに配る拠点「フードパントリー」が注目されている。10カ所以上に広がる埼玉県内で、約1年半前に先駆けて取り組み始めたのが、越谷市の草場澄江さん(56)だ。目的は食料を届けることだけではないという。目指すものは何か。

「地産地消型のフードパントリーを目指したい」と話す草場さん=越谷市で

100世帯から申し込みが殺到

 -始めたきっかけは。

 地元で民生・児童委員を10年近く続けているが、課題を抱える家庭への支援には限度もある。2016年に開いた子ども食堂にも、本当に来てほしい子がなかなか来ない。アプローチの方法を考えていた時、東京でパントリーの取り組みがあるのを知った。これならできると、食品を保管して配布できる場所をすぐに探した。

 -順調に進んだか。

 条件が合う空き店舗が偶然見つかり、大家さんも理解してくれた。大きかったのが越谷市の協力。毎年8月に児童扶養手当を受ける人が市に現況届を提出するので、会場にチラシを置かせてもらった。その効果で100世帯以上から申し込みが殺到した。自治体ごとに対応が異なるのは残念だが、活動する上で行政とのパイプは鍵になる。

 -2カ月に1度の開催で、利用者の反応は。

 親子連れで来る人が多く、11回目となった今月は約150世帯に配った。お菓子を選ぶ子どもの姿がほほ笑ましく、「ぜいたく品で買えない」と親が喜んでくれる。「いつも安い外国産のコメを買うが、ここで受け取る国産がおいしい」という声もあり、ニーズの高さを感じる。

県内に20カ所超える勢い

 -一方で食料支援とは別の狙いがあると。

 パントリーは窓口的な活動として優れていて、利用者と「つながる」ことが真の目的。「実は子どもが不登校で困っていて…」と話し始める親も多く、話を聞いてもらうだけで救われる人も。利用を機に、子ども食堂や学習支援教室に通い始めた子もいる。

 信頼できる大人とつながるかどうかは、その子の人生を左右する。でも、つらい状況を親は隠したがり、子は自分で「助けて」とは言えない。待っていては聞こえない声を拾う場所が地域に必要ではないか。

 -パントリー同士の連携も深めている。

 県内では今年中に20カ所を超えそうな勢い。いずれもフードバンク団体「セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)」の八潮市内の倉庫から食品を運んでいるが、中間拠点の倉庫を各地に置こうと話し合っている。効率的に輸送し、配る食品が増えて保管しきれないパントリーを下支えしたい。

 -思い描く将来の姿は。

 2HJから引き取る食品を基本に、地元の企業や家庭などからの寄付をもっと増やしたい。支援者の顔が分かる地産地消型のパントリーとして、それぞれの地域に根付いて自立していくのが理想だ。

草場澄江(くさば・すみえ)

 和歌山市出身。埼玉フードパントリーネットワーク代表。20代で小学校教員を2年務めたが、出産を機に退職したため「十分やり切れなかったという思いが活動の下地になっている」。埼玉県内では今月、杉戸町とさいたま市で新たなパントリーが立ち上がる予定。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年1月15日