医療従事者やひとり親家庭を支えたい 戸田市の居酒屋が弁当を無償配布
ひとり親家庭の苦境 ニュースに衝撃
「いらっしゃい」。今月3日午後。元気な声で飛び込んできた親子を笑顔で迎え入れると、沼尻さんと店の従業員はできたてのサーモン丼とホタテフライの包みを手渡した。
訪れた3人の子どもたちの母親は、病院で働く40代の看護師。新型コロナに感染した患者と直接かかわる部署ではないが、感染リスクと向き合う医療現場に身を置く立場として「(周囲の人に)感染させては申し訳ない」と緊張感を常に抱えているという。長引くコロナ禍で心身の負担は大きく、母親は「支援してくださるという気持ちがうれしい。医療従事者でよかったと思えます」と声を弾ませた。
沼尻さんは戸田市で生まれ育った。本業は内装業だが、2年前に居酒屋を開いた。午後11時まで営業していたが、コロナ禍による営業時間の短縮要請もあって売り上げは半減した。
緊急事態宣言が再発令された今年1月、女性のひとり親家庭の収入が激減し、経済的に追い込まれている実態をニュースで知って衝撃を受けた。店の近くにある戸田中央総合病院でも国内最大規模のクラスター(感染者集団)が発生し、医療従事者が大変な思いで働いていると聞いていた。
「役に立てることは…」SNSで広がり
「自分にも役に立てることはないか」と行動を起こした。食材などの費用は時短要請に伴う協力金を充て、1月から毎週土曜に弁当の無償配布を始めた。毎回メニューを考えながら多い時で40~50食を準備し、医療従事者やその家族、ひとり親家庭に配る。SNSや口コミで評判が広まり、戸田市内の子ども食堂ともつながった。モツの煮込みなどを提供して喜ばれたこともあるという。
3月に緊急事態宣言が解除されてからも月-木曜は店を自主的に休業し、金、土曜は客の数を制限して時短営業している。感染リスクを少しでも減らし、ひとり親家庭や医療従事者を支援する活動をできる限り続けていきたいからだ。
沼尻さんは「やっていることは微々たること」と謙遜しながらも「コロナ禍でつらい思いをしている人たちを支援する輪が少しでも広がれば」と期待した。