「こども宅食」東京から全国へ コロナ禍で増える困窮家庭に食材と安心を届けます 

川田篤志 (2020年12月14日付 東京新聞夕刊)
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絵本にクリスマスカードを添えて、発送の準備をする「OSAGARI絵本」のスタッフら=東京都文京区で(安江実撮影)

 子育て中の生活困窮世帯に食材を無償で届ける「こども宅食」事業が、新型コロナウイルス禍を機に東京から全国へと広がっている。感染拡大前の1月に比べ、取り組む自治体や民間団体は3倍に増えた。店舗などで食事を提供する「こども食堂」よりも人との接触を減らせる上、周囲に知られず利用してもらえるメリットがあり、配送時などに悩み事を聞き、公的支援につなげる役割も担う。

周囲に知られないよう、無地の箱で

 東京都文京区で中古の絵本を扱う「OSAGARI絵本」に11月下旬、宅食団体のスタッフの姿があった。小学2年生までの子どもがいる利用世帯にクリスマスプレゼントとして渡す絵本を梱包(こんぽう)するためだ。食材だけでなく、寄り添い、見守る人がいるという安心感を届けることも重視しており、商品を提供した店主の伊藤みずほさんは「コロナ禍でみんなつらい思いをしているが、絵本を読んで笑顔になれば」と話した。

 こども宅食は2017年、文京区が認定NPO法人「フローレンス」などと連携して始めた。現在は区内の約600世帯が登録し、運営団体のスタッフが定期的に米や菓子などを持って利用者の自宅に出向き、就労や子育てなどの相談にも乗る。偏見を恐れ、支援を受けることに抵抗感がある家庭もあるため、食材を詰めるのに無地の箱を使うなど、周りに気付かれないような工夫を凝らす。

子ども食堂が開けなくても、できる

 この事業の普及を目指す一般社団法人「こども宅食応援団」によると、取り組む自治体や民間団体は1月時点で文京区を含め6都府県の10団体だったのが、現在は17都府県の30団体に拡大。コロナ禍でこども食堂が活動自粛を余儀なくされたり、一室に集まるリスクが意識されたりしたことも背景にあるという。

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こども宅食の配送に向けて食品の仕分けや梱包作業をするスタッフら=東京都江東区で(フローレンス提供)

 フローレンスの本間奏(かなづ)さん(36)は「地域コミュニティーとつながれるこども食堂は大切だが、周りの目を気にせず支援を受けられるのが宅食」と意義を語る。

初めて専門店のパンを食べた子が…

 「第一波」が襲った4月以降、フローレンスには「仕事を失って貯金も底をつき、子どもに食べさせるものがない」といった切実な声が次々と寄せられ、先月中旬までの相談件数が200件近くに達した。

 佐賀市内の団体は政府の緊急事態宣言が出た後、地元で有名なパン専門店の商品を登録家庭に届けた際に「初めてパン屋さんのパンを食べる。お金持ちになったみたい」と笑顔をはじけさせる子どもの姿に接した。生活に窮する世帯が増えていることの裏返しでもあり、宅食団体の関係者はソーシャルワーカーと連携して対応するなど「SOSを見逃さず、支援機関につなぎたい」と力を込める。

 各地域での宅食事業の運営費は、寄付や地元自治体の助成などでまかなわれているが、さらなる普及には安定的な運営費の確保が課題。政府は6月に成立した2020年度第2次補正予算で、新たに運営費の助成を始めた。自民党有志も8月に「宅食推進議連」を設立し、来年度以降の助成の継続や、政府備蓄米の活用を政府に働き掛けるなど普及を後押しする。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月14日

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