虐待や体罰・暴言が子どもの脳を傷つける 親が気を付けること、回復に必要なことは? 7月11日Eテレ「サイエンスZERO」で解説

暴言によって変形した脳の聴覚野の一部(着色部、福井大学の脳科学者・友田明美教授提供)

 体罰や暴言など「マルトリートメント」と言われる不適切な子どもとの関わりが、子どもの脳を傷つけてしまう―。こんな話を聞いたことがあるという保護者も増えているのではないでしょうか。最近の脳科学研究では、実際に脳の細胞レベルで、異常が起きるメカニズムの解明も進んでいます。NHKチーフ・プロデューサーの木村春奈さん(43)は、自身も子どもへの接し方に悩む中で、このテーマを掘り下げた番組「サイエンスZERO 〝子どもの脳〟を守れ 脳科学が子育てを変える」(Eテレ 7月11日 午後11時半)を制作しました。木村さんは「何となく良くないとは知っているけれど、という親の皆さんに科学的な根拠を知ってもらうことで、子どもと向き合う際の歯止めになれば」と話しています。

コロナ禍でワンオペ 怒鳴るようになり…

 現在小学低学年の長女の妊娠中から、体罰などが脳に悪影響を与えるという知見を本などで知り、興味を持ったという木村さん。「こういう知識をちゃんと持って、子育てしていきたい」と考えていたそう。乳幼児の時期は比較的ストレスなく子育てできていたが、長女が小学生に、2歳下の弟も活発になる年ごろになり、イライラすることが増えた。

NHKチーフ・プロデューサーの木村春奈さん

 数年前から夫が単身赴任となり、育児はワンオペ。さらにコロナ禍で、子育てを助けてもらっていた「ファミリーサポート」が使えなくなったり、出掛けにくくなったりしたことも、木村さんの負担感を増した。

「『お風呂入ってね』という声掛けも、最初は穏やかにしていても言うことを聞かないので、気づくと大声で怒鳴っていたり。一度怒鳴ると、どんどんエスカレートしていくような感じもあって。あれ?もしかしてよくない接し方が、増えてるかもと感じました」

暴言で、脳の言葉をつかさどる部分に異常

 そんなとき、あらためて思い出したのがマルトリートメントと脳の関係。マルトリートメントとは、子どもが大けがをするような虐待ではなくても、子育ての中でたたく、怒鳴る、 暴言を吐くといった行為を繰り返すこと。「コロナで子どもと自宅にいる時間が増え、同じように追い詰められている家庭も多いのでは」と考え、番組の企画をスタートさせたという。

暴言が子どもの脳に与えるダメージについて説明する 福井大学の脳科学者・友田明美教授

 番組は11日放送の「サイエンスZERO」で、テーマは「〝子どもの脳〟を守れ 脳科学が子育てを変える」。マルトリートメントが脳に「傷」を与えると警鐘を鳴らし続けている福井大子どものこころの発達研究センター長の友田明美さんは、たとえば、暴言を受け続けた子だと、語彙(ごい)理解力にかかわる部分に影響が出るなど、マルトリートメントの種類によって、脳の異常の現れ方も違ってくるという知見を解説。ネグレクトを受けると、情報伝達にかかわる物質が形成されにくくなることや、脳に入り込んだ細菌を排除する役割がある免疫細胞ミクログリアが、強いストレスを受けることで正常な細胞まで攻撃してしまうことなど、動物実験で分かってきた他の研究者の研究成果も交え、ミクロレベルで明らかになってきたことを伝える。

離乳直後に仲間から隔離されたマウスの脳(右)。情報伝達に欠かせない物質の形成がうまくいかないことが確認された(奈良県立医科大 牧之段学准教授提供)

傷ついても、その後の関わりで回復しうる

 番組が伝えるもう一つのメッセージは、傷ついた子どもの脳は回復する可能性もある、ということだ。安心できる抱っこや、互いに呼吸を合わせ、動きを同調させることができるボール遊びなど、大人との心地良い体験を積み重ね、関係性を結び直すことで、新たな神経ネットワークが生成されることも、長年傷ついた子どもたちと向き合ってきた医師らの解説で伝える。

子どもの脳の回復にキャッチボールを取り入れ 効果を上げてきたアメリカの精神科医・ベッセル・ヴァンダーコーク博士

 「不適切な養育をしてしまったお母さん、お父さんを脅したり、責めたりすることが狙いではありません。もし、仮にダメージを与えるようなことをしてしまっても、その後の関わりで回復の道筋もあることを伝えたい。悩んだり、失敗したと思ったときに、どうしたらいいかを考えるきっかけにしてもらえたら」と木村さん。「取材した専門家たちは口をそろえて、親のストレスがマルトリートメントにつながる、と指摘していた。親自身が周囲に助けを求められる環境の大切さをあらためて感じています」

 「サイエンスZERO 〝子どもの脳〟を守れ 脳科学が子育てを変える」はNHK・Eテレで7月11日(日)午後11時半から。再放送は17日(土)午前11時から。NHKプラス、NHKオンデマンドで配信も。