虐待や体罰・暴言が子どもの脳を傷つける 親が気を付けること、回復に必要なことは? 7月11日Eテレ「サイエンスZERO」で解説
コロナ禍でワンオペ 怒鳴るようになり…
現在小学低学年の長女の妊娠中から、体罰などが脳に悪影響を与えるという知見を本などで知り、興味を持ったという木村さん。「こういう知識をちゃんと持って、子育てしていきたい」と考えていたそう。乳幼児の時期は比較的ストレスなく子育てできていたが、長女が小学生に、2歳下の弟も活発になる年ごろになり、イライラすることが増えた。
数年前から夫が単身赴任となり、育児はワンオペ。さらにコロナ禍で、子育てを助けてもらっていた「ファミリーサポート」が使えなくなったり、出掛けにくくなったりしたことも、木村さんの負担感を増した。
「『お風呂入ってね』という声掛けも、最初は穏やかにしていても言うことを聞かないので、気づくと大声で怒鳴っていたり。一度怒鳴ると、どんどんエスカレートしていくような感じもあって。あれ?もしかしてよくない接し方が、増えてるかもと感じました」
暴言で、脳の言葉をつかさどる部分に異常
そんなとき、あらためて思い出したのがマルトリートメントと脳の関係。マルトリートメントとは、子どもが大けがをするような虐待ではなくても、子育ての中でたたく、怒鳴る、 暴言を吐くといった行為を繰り返すこと。「コロナで子どもと自宅にいる時間が増え、同じように追い詰められている家庭も多いのでは」と考え、番組の企画をスタートさせたという。
番組は11日放送の「サイエンスZERO」で、テーマは「〝子どもの脳〟を守れ 脳科学が子育てを変える」。マルトリートメントが脳に「傷」を与えると警鐘を鳴らし続けている福井大子どものこころの発達研究センター長の友田明美さんは、たとえば、暴言を受け続けた子だと、語彙(ごい)理解力にかかわる部分に影響が出るなど、マルトリートメントの種類によって、脳の異常の現れ方も違ってくるという知見を解説。ネグレクトを受けると、情報伝達にかかわる物質が形成されにくくなることや、脳に入り込んだ細菌を排除する役割がある免疫細胞ミクログリアが、強いストレスを受けることで正常な細胞まで攻撃してしまうことなど、動物実験で分かってきた他の研究者の研究成果も交え、ミクロレベルで明らかになってきたことを伝える。
傷ついても、その後の関わりで回復しうる
番組が伝えるもう一つのメッセージは、傷ついた子どもの脳は回復する可能性もある、ということだ。安心できる抱っこや、互いに呼吸を合わせ、動きを同調させることができるボール遊びなど、大人との心地良い体験を積み重ね、関係性を結び直すことで、新たな神経ネットワークが生成されることも、長年傷ついた子どもたちと向き合ってきた医師らの解説で伝える。
「不適切な養育をしてしまったお母さん、お父さんを脅したり、責めたりすることが狙いではありません。もし、仮にダメージを与えるようなことをしてしまっても、その後の関わりで回復の道筋もあることを伝えたい。悩んだり、失敗したと思ったときに、どうしたらいいかを考えるきっかけにしてもらえたら」と木村さん。「取材した専門家たちは口をそろえて、親のストレスがマルトリートメントにつながる、と指摘していた。親自身が周囲に助けを求められる環境の大切さをあらためて感じています」