まるで引っかけ問題からの罰ゲーム 小学校プールの水出しっぱなし、教諭は手順書に従ったのに…
市教委の賠償請求に「理不尽」の声
川崎市多摩区の市立小学校で5月、屋上プールの水を止めるのに失敗し、217万リットルの水を流出させる事故が起きた。川崎市教育委員会が8月、校長と作業をした教諭の過失として、損害の半額の計約95万円を2人に請求したと報道発表すると、市内外から抗議や意見計約680件が寄せられた。
事故を受けてNPO法人「スクール・ボイス・プロジェクト」(東京)が全国の教職員を対象に行ったアンケートでは、市教委の対応を9割超が「おかしい・理不尽だ」と回答。プールの管理や水泳指導を大きな負担と感じる教職員が多い現状も見えた。
市長に問いかけると「感情論は…」
9月の川崎市議会代表質問でこの問題が取り上げられた翌日、市役所のエレベーターで偶然、福田紀彦市長と乗り合わせた。「さすがに教諭がかわいそうだと思いました」と述べると、福田市長からは「感情論になるのは違うでしょう」と返ってきた。
福田市長は8月末の定例会見で「金額の多寡ではなく、あくまで過失行為に対する責任を判断しなければならない」と見解を示していた。
問題のスイッチは「いじりません」
記者も一人の納税者として、税金は無駄なく住民の生活を良くするために使ってもらいたいし、ミスの補塡(ほてん)に充てられるのは納得がいかない。それでも教諭を気の毒に感じたのは、代表質問を通じてこの学校のプール管理のあり方が明らかになるにつれ、教諭がまるで引っかけ問題を出された末、過大な罰ゲームを課せられたように感じたからだ。
ミスがあった学校で使われていた操作手順書は、写真に簡単な説明を入れただけ。ろ過装置のスイッチは「自動」で作動させたまま「いじりません」と書かれていた。
川崎市教委によると、水位を変える際にはこの手順に従えばOKだが、水がたまっていない状態でろ過装置が作動すると、警報音が鳴ってしまう。
教諭はあれこれ試行錯誤していた
同校では過去にも土曜日の作業で警報音が鳴ったというが、今回は水曜日の午前11時で授業中だった。ろ過装置のスイッチを切れば警報音は止まったが、教諭は手順書に従ってスイッチを触らず、あれこれ試してブレーカーを落とした。
教諭は6時間後、水を止めるために注水スイッチを切ったが、ブレーカーが落ちたままでスイッチが機能しなかった。吐水口を確認せず、注水が続いていたのに気付かなかったのは教諭のミスだが、手順書に従って作業し、授業の妨げにならないよう試行錯誤したことが分かる。その結果、多額の賠償を求められるのでは、手順書が巧妙なわなのように思えてならない。
抗議「教員のなり手がいなくなる」
校長は操作マニュアルの整備が不十分だったことの責任を問われた。川崎市教委によるとこれまで、プールを使っている市立校162校のうち約4割でマニュアルがなかったという。プールの管理は教職員の本来の業務とは言えず、慣れない作業を手探りで進める実態があり、事故は起こるべくして起きたとも言える。
実際、同様の事故は過去に他都市でも起きており、市教委は判例を参考に賠償請求した。市役所では「なぜ川崎だけこんなに注目されてしまったのか」と困惑の声も聞かれたが、教職員の労働環境の改善を求める全国的な機運の高まりが背景にあったのだろう。市教委に寄せられた抗議には「教員のなり手がいなくなる」というものも多かった。
他の自治体同様、川崎市も教員不足が深刻な問題だ。今こそ、教職員が働きやすい職場づくりをあらゆる角度から進めることが求められている。
給水作業の民間委託を求める陳情は不採択
川崎市教委、全会一致で
川崎市教委事務局は審議に先立ち、給水にかかる時間は学校によって2、3時間から最大で72時間とばらつきがあったり、保守点検業者との日程調整が必要になったりするとして、「民間委託を行う上での課題も大きい」との見解を示した。
一方、再発防止の取り組みとして、水泳授業の実施に関する安全管理マニュアルを8月に改定し、点検リストを活用して給水栓の閉め忘れや漏水がないか複数の教職員で確認することや、管理職への報告の徹底を追加したと説明した。
「特別教育は必要ない」
陳情で、事故があった学校で教諭が警報音を止めるために行ったブレーカー操作は、国の労働安全衛生規則で特別教育講習の受講が必要なのではないかとの指摘もあったが、「法的には特別教育が必要なブレーカーに該当しない」とした。
委員からは「組織全体で取り組む体制を整え、今後事故なくやっていけるように進めてほしい」などの意見が出された。
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