咽頭結膜熱を「プール熱」と呼ばないで…水泳3団体が訴え 秋以降も大流行、生活圏全体で感染するものです

山田祐一郎 (2023年12月1日付 東京新聞朝刊)
 アデノウイルスによる咽頭結膜熱について、日本水泳連盟など3団体が「偏見につながる」として「プール熱」という呼称を使用しないよう厚生労働省に要請した。例年夏に感染が流行し、広く浸透した名称だが、今年は秋以降も大流行中。水泳関係者が呼称使用に異を唱えた背景とは。

泣く子どものイメージ写真

小児に多く、例年は7~8月がピーク

 11月28日、同連盟の鈴木大地会長らが厚労省を訪れて要望書を提出した。要望書は、咽頭結膜熱はプールだけでなく、生活圏全体に感染の可能性があると指摘する。鈴木会長は「プールが危険だと誤解を招きかねない」と訴えた。塩崎彰久政務官は「対応を考えたい」と応じた。

 厚労省のホームページでは、咽頭結膜熱は小児に多い病気で、飛沫(ひまつ)や接触感染により38~39度の発熱やのどの痛み、結膜炎などの症状が出るほか、7~8月に流行のピークを迎えると説明。「プールでの接触やタオルの共用により感染することもあり、プール熱と呼ばれることもある」と記載されていた。

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咽頭結膜熱について説明する厚生労働省のサイト

 要望後の11月30日に確認すると「近年ではタオルの共用が減った等の理由からプール利用における集団感染の報告は見られなくなってきている」などの文言が追加された。

 担当者は「かなり以前から一般的に使われてきたので、誰がどのような経緯で使い始めたかなどは不明。誤解が生じないよう説明を加えた」と説明する。

長年モヤモヤ 問題提起するなら今

 これまでは夏の感染例が多かった咽頭結膜熱だが、今年は11月時点でも全国で患者数が増え続けている。国立感染症研究所が公表している週報では、8月下旬以降、患者数が急増。11月6~12日には、全国約3000の小児科定点医療機関で1機関当たりの患者数が「3.23人」に上り、警報基準の「3人」を超えて過去10年で最も多くなった。

 「呼称については長年、同じ思いを抱いてきたが、プール開放時期と感染拡大の時期が重なっており、アクションを起こせないでいた」と明かすのは3団体の一つ日本スイミングクラブ協会の丁子(ちょうじ)昇事務局長。子どもが水泳教室へ通うのを控えたり、学校などで感染流行があると、水泳教室の生徒らが「感染源」の扱いを受けるとの声も聞かれているという。今回の要望について「今年は屋外プールの使用が終わっている時期に感染拡大したため、プールだけが原因ではないと強調できる」と話す。

 日本水泳連盟の丸笹公一郎常務理事は「近年は患者が減り、新型コロナへの注目が集まっていたが、今年夏以降、患者が増え、対応を考えていた。推測や印象でわかりやすい言葉が定着している。正しい理解が広がってほしい」と求める。

呼称に左右されず正しい感染対策を

 病気の呼称を巡っては、長時間座ったままの姿勢でいることで足に血の塊ができ、肺につまって呼吸困難や心肺停止を引き起こす「静脈血栓塞栓(そくせん)症」も似た状況だ。いわゆる「エコノミークラス症候群」だが、2002年に日本旅行医学会が「ロングフライト血栓症」の呼称を提言。「エコノミークラスだけで起きるわけではない」として「旅行者血栓症」と表記する航空会社もある。

 咽頭結膜熱の場合、プールはあくまで感染源の一つ。昭和大の二木芳人客員教授(感染症学)は「学校のプールの塩素濃度が管理されず低くなるケースやタオルを共有していたのは昔の話。いまはそのようなことはなくプールが主な感染源ということはない」と指摘。現在の感染流行は、5月に新型コロナが5類移行したことで、感染予防意識が低下したことが要因だとし、こう強調する。「実態に合わない呼称に左右されることなく、正しい知識で一人一人が感染対策をする必要がある」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年12月1日

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