ずさんな企業主導型保育、背景に安倍首相の一声 元内閣府職員が証言「とにかく急ぐ必要あった」
わずか5カ月前に急浮上 元職員「聞いたこともなかった」
安倍政権が待機児童対策の切り札として、2016年4月に導入した企業主導型保育事業。制度案が急浮上したのは、わずか5カ月前の2015年11月だった。
「女性が出産と同時にキャリアを諦めない社会をつくっていく。(2017年度末までに40万人分増やすとしていた保育サービスを)10万人分、上乗せする」
11月6日、首相官邸であった「一億総活躍社会に関する総理と20代若者との懇談会」で、安倍晋三首相は待機児童対策の強化を約束した。
11月26日、官邸での「一億総活躍国民会議」に突然登場したのが、「企業主導型の保育所」の文言だ。保育サービスの拡大幅を50万人に増やすことを「特に緊急対応」と強調し、新制度の整備を2016年度予算で検討すると明記。制度設計を担う内閣府をこの直前に離れた元職員は「企業主導型という言葉は聞いたこともなかった。急に出てきたのだろう」と話す。
「1年でも厳しい。異例」ニーズ調査せず、審査は”丸投げ”
2016年3月、子ども・子育て支援法が改正され、4月からの制度開始が決まった。別の内閣府元職員は「大型事業の法整備は1年でも厳しいのに数カ月は異例。ニーズ調査をする時間もなかった」と証言する。
その結果、構築されたのは、審査も監査も外部に委託する仕組みだった。公募要件を満たした2事業者の中から委託先に選ばれたのは公益財団法人「児童育成協会」(東京都渋谷区)。選定した評価検討委員会委員の平均採点は、48点満点の21.2点だった。
検察幹部「準備不足で制度を始めたことが事件の遠因かも」
委員の1人は「『保育への姿勢も人的態勢も不十分』との感想を複数の委員が持っていたが、ほかに候補がなかった。2016年度開始という前提を官邸が示していたから、内閣府には選定をやり直す時間がなかったのだろう」と指摘する。
2016年3月時点の協会の職員数は41人。今年3月時点では117人に増えたが、審査担当は52人だけ。18年度は4887件の助成申請を審査し、3817件の助成決定を出した。
予算は右肩上がりで増え、本年度は2000億円に上った企業主導型保育事業。ある検察幹部は「準備不足のまま制度を始めたことが、事件の遠因かもしれない」と冷ややかに話した。