子育てから体罰をなくそう しつけでも「たたく、怒鳴る、心を傷つける」は禁止 11月は児童虐待防止推進月間です
ポイント1 たたく、怒鳴る育児はダメ
しつけは子どもが社会において生活できるようにサポートして社会性をはぐくむ行為です。しつけのためでも身体に苦痛や不快感を意図的にもたらす行為は許されません。例えば…
× 言葉で3回注意したけど言うことを聞かないのでほおをたたいた
× 友達を殴ってけがさせたので、同じように子どもを殴った
× 宿題をしなかったので夕ご飯を与えなかった
ポイント2 心を傷つける行為もダメ
子どもの心を傷つける暴言も、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼします。例えば…
× 冗談のつもりで「おまえなんか生まれてこなければよかった」など、子どもの存在を否定するようなことを言った
× やる気を出させるという口実で、兄弟姉妹を引き合いにしてけなした
なぜ体罰禁止? 背景に虐待相談件数の増加
児童虐待の相談件数は年々増加しており、中には保護者が「しつけ」として暴力・虐待を行い、死亡にいたる事件があります。このような状況を踏まえ、2019年6月に成立した改正児童福祉法などにより、体罰が許されないことが法律で決まりました。
体罰の悪影響 「連鎖」で子どもが暴力的に
親から体罰を受けていた子どもは、全く受けていなかった子どもに比べ「落ち着いて話を聞けない」「約束を守れない」「感情をうまく表せない」などの悪影響を受けるとされています。大人がたたく、怒鳴るなどして子どもに言うことを聞かせることが、子どもに暴力的な言動のモデルを示し、自分も同じように振る舞ってよいと子どもが思うきっかけとなる可能性があります。
日本では6割が「体罰容認」
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの2017年の調査によると、「しつけのために子どもに体罰をすることに対してどのように考えますか」という質問に対し、日本では6割近くの人が容認しています。
体罰を禁止したスウェーデン 意識も変化
1979年に世界で初めて子どもに対する体罰を法律で禁止したスウェーデンでは、1960年代は5割超が体罰を容認していましたが、2018年には1~2%程度まで減少しました。
どうすれば「体罰をしない子育て」ができる?
よくないと思っていても「体罰を回避するのが難しい」と感じられることもあるでしょう。安心感や信頼感のある関係が心地よいのは、子どもも大人も一緒です。関わり方のポイントを紹介します。
「言うこと聞かない」にもいろいろ
・保護者の気を引くため
・子どもなりに考えている
・言われたことを理解できていない
・体調が悪い
・「イヤ」という意思表示も成長の証し
ときには一緒に、お手本を示そう
良いこと、できていることを具体的にほめよう
よく忘れ物をしてしまうなら? 一緒に方法を考えよう
・玄関の真ん中に目立つように置く
・持ち物リストを作って「見える化」する
保護者のストレス解消も必要です
保護者も子育てやそれ以外でストレスはたまるもの。時間や心の余裕がないときは深呼吸して気持ちを落ち着けたり、ゆっくり5秒数えるなどの工夫を見つけられるといいでしょう。保護者が休むことも重要です。
体罰肯定論の一番の問題は? 大日向雅美さんに聞く「親に優しく、子どもを尊重する社会へ」
懸命にわが子を愛そうとしているのに、子育てがつらくなり、きつい言葉を向けたり手をあげてしまって、苦しむ親が増えています。子育てに孤軍奮闘している専業主婦の母親、仕事と子育ての両立で苦しんでいる働く母親や父親等々、今の日本社会の子育ては親、家庭にあまりにも負担がかかりすぎているのではないでしょうか。
2019年、児童福祉法の一部改正で虐待防止のために体罰禁止が盛り込まれ、2020年4月から施行されましたが、体罰がなぜ虐待なのかと疑問の声も聞かれます。「子どもは理解力が未発達。人をたたいたときは同じようにたたいて痛みを知らせることが必要だ」といった体罰肯定論も根強くあります。
しかし、大人同士の関係で相手の間違いを正すために、あるいは外国人が仮に日本社会ではマナー違反となることをしたときに日本語が分からないからと、たたくことが許されるでしょうか。いずれも暴力の行使であり、けっして許されることではありません。
相手が子どもなら許されるとしたら、体罰肯定論の一番の問題は子どもの人権への尊重の念を欠いていることです。さらに疲れやいら立ちから子どもに手をあげ、それをしつけだと抗弁するとしたら、暴力をエスカレートさせる怖さがあることも私たちは知っておかなくてなりません。
この法律には罰則規定がありません。親を罰することが目的ではなく、大変な子育てをしている親を、そして子どもたちを社会の皆で守り、支えることが真の目的です。
福祉先進国スウェーデンは世界で初めて(1979年)子どもへの体罰を禁止した国ですが、法律成立から今日まで40年余りの歳月にわたって子どもの命と人権を守るさまざまな試みを行っています。その背景には「社会が親に優しくあることが子どもを守ることにつながる」という哲学があります。私たちも今回の法改正を機に子どもの人権を尊重し、親の子育てを皆で支える社会を築きたいと心から願っております。 (恵泉女子大学 学長)
子どもが持つ「権利」とは
子どもに対しても大人と同様、たたく、暴言を吐くなどの人権侵害は許されません。すべての子どもは健やかに成長・発達し、その自立が図られる権利が保障されることが2016年に改正された児童福祉法で明確化されました。保護者はその第一義的責任を負います。
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