虐待で一時保護…対立しやすい親と児童相談所 第三者が入って家庭復帰を支援 NPOがプログラム開発

(2021年6月24日付 東京新聞朝刊)
 

スタッフ見守りのもと、子ども(右)と一緒に過ごす母親(チャイルド・リソース・センター提供)

 虐待などの通告を受けた児童相談所は、安全確保のため子どもを一時保護する一方で、親子関係の修復に向けた支援に取り組む。だが児相職員は多忙でこうした業務に十分な時間をかけられない上、保護者とも対立関係が生じやすい。民間が開発したプログラムを活用して保護者支援を進める自治体も出てきている。 

多忙な児相 十分に支援できない

 厚生労働省によると、児童相談所の一時保護の件数は2019年度、5万2916件。うち4分の1に当たる1万3567件では、子どもが原則2カ月以内の保護期間後も、家庭復帰が困難などの理由で児童福祉施設や里親の下にとどまった。

 「一時保護対象の親子には定期的かつ継続的な支援が必要。でも、児相の職員は日々の緊急対応などに追われ、保護期間後の支援が十分にできない」。大阪府の児相職員を18年務めた宮口智恵(ともえ)さんは、こんなもどかしさを感じていた。

 「親子支援を専門に行う機関が必要」と児相を辞め、2007年に代表理事となって設立したのが、大阪市の認定NPO法人「チャイルド・リソース・センター(CRC)」だ。視察したカナダの取り組みを参考に、親子関係の再構築を支援するプログラム「ふぁり」を開発し、児相と連携して実施。一時保護後に施設などに入った小学校低学年くらいまでの子どもが家庭に戻る際の支援を行ってきた。

まずは”親の大変さ”を受け止める

 ラテン語で「灯台」の意の「ふぁり」は約半年間で全10回のプログラム。1回約2時間で、スタッフの立ち会いの下、前半は親子が別々に、後半は一緒に過ごす。親は毎回、「親としての自分」「親の役割」などのテーマに沿って考えながら、子どもとの適切な関わり方を学んでいく。

 スタッフがまず親の大変さを受け止め、安心して親子が会えるようにすることが特徴だ。宮口さんは「何が起こっていたかを振り返る虐待行為の内省は最後の段階です」と説明する。

利害関係がないから正直に話せる

 保護者の中には、一時保護という親子を引き離す判断をした児相職員に反感を抱き、素直に向き合えない人も多い。一方、CRCのような第三者は、「親との利害関係がなく、ネガティブな心情なども正直に吐露できる。『もう二度と通報されないように』と構えなくて済む利点もある」と宮口さん。親子関係の修復には、失敗も許されると思える環境が大事だからだ。

 全プログラムを終え、「受講しなければ児相と争うことばかりにエネルギーを使い、したことを省みられなかった」と振り返る親も。児相職員からも「親子の今の状態を理解でき、次の支援に非常に役立った」と評価の声が上がる。

家庭復帰直後は特別なケアが必要

 ただ、親子で再び暮らし始めてもスムーズにいかないこともある。子どものあいさつや食べ方ひとつでも「今までと違う」と感じると親は不安になるという。「未知なる子への恐れとなり、再虐待の引き金になりかねない」と宮口さん。「支援者は、家庭復帰直後は親子に対して特別なケアが必要だという視点を持っておかないといけない」と強調する。

親子プログラム「ふぁり」を開発したチャイルド・リソース・センター代表理事の宮口智恵さん

 2007年以降、プログラムを受けた親子は約170組の400人。現在は大阪府と堺市、福岡市の児相がプログラムを導入している。宮口さんは「再虐待のリスクを抱えた保護者の8~9割は被虐待経験があり、適切な養育モデルがない。こうした人向けの介入支援にもっと人とお金をかける必要があると社会が位置付けてほしい」と話す。