性教育「思春期から」はハードルが高い 10歳までにこれだけは伝えておこう 産婦人科医・高橋幸子さんインタビュー
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小4は「聞きたい!」と目をキラキラ
―本に登場してサッコ先生に質問したり、一緒に考えたりするのは小学4年生の女の子・ここちゃんと、男の子・からくん。なぜ4年生なんでしょう。
私はもともと中学校や高校で性教育をしていましたが、10年前から小学校でも話をするようになりました。10歳になる4年生ではそれまでの成長を振り返ったり、将来の夢を話したりする「2分の1成人式」のような行事がある学校が多く、そのタイミングで性の話を伝えてほしいという依頼が多いです。
「どうしておへそがあるんだろう」というところから始めて、最後に私の出産の際のビデオを見てもらう、という流れ。10歳の子たちにはこうやって話せば理解してもらえる、という手応えがあるので、本にも講演で伝えてきた内容を盛り込んでいます。
中高生と比べると、小学4年生は本当に「聞きたい!」という感じ。目をキラキラさせて楽しそうに聞いてくれます。私にとって小学生にお話しする時間はご褒美のような時間です。学校によっては理科で「人の誕生」を習う5年生や、最高学年の6年生に向けて話すこともあります。6年生はやはり4年生とは反応が全然違います。何人かでニヤニヤして「今日アノ話だってよ」みたいな感じだったり、逆に緊張してカチコチになっている子もいたり(笑)。
親が一度読んでから手渡してほしい
―なるほど、それで4年生なんですね。うちの息子も先日、「なんかね、今日学校で聞いたんだけど、赤ちゃんってお父さんの体の中にある、何万とかすごい数の中から一つだけ選ばれて赤ちゃんになって生まれたんだって。俺ってすごくない?」と言ってきました。精子と卵子の名称もおぼつかない様子でしたが、「おお、きたきた」と思いました。でも、そこからうまく話をつなげられませんでした。
4年生の保健体育で初経と精通を習うんですよね。そこで精子と卵子が出てくる。性教育って、どうしたらいいのかなとどうしても身構えちゃいますが、そういうときにこの本ですよ!(笑)。もちろん親子一緒に読んでも楽しいと思いますが、中に「精通や初経のことを聞いてみよう」とか「生理用ナプキンの実験をしてみよう」などの「ミッション」を盛り込んでいるので、親が先に読んだ上で子どもに手渡し、こういう質問がくるかもしれないな、と準備することもできます。
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本の中で子どもたちには「大人のいないところで、ひとりでじっくり、好きなように読んでみてね」と伝えていますが、手渡すのはやはり身近な大人。本をいつ渡せばいいかな、と見計らっていないとチャンスを逃してしまいます。息子さんのような質問をしてきたときがそのチャンスかもしれませんね。
―もっと小さい時期からでも性教育ってできるんでしょうか。
性教育はいきなりセックスやマスターベーションの話をすることではありません。まずは自分の体を知り、自分を好きになることがスタートです。世界の性教育の標準が書かれているユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では5歳から始まっています。
カナダの看護師で性教育の第一人者であるメグ・ヒックリングさんの本の中には、「赤ちゃんってどうやってできるの?」という問いは、2、3歳でも聞いてきますよと書かれています。今は中学生になった私の息子もいつ聞いてくるかな、と思っていたら、7歳のときに「ママ~、赤ちゃんってどうやってできる~?」と聞いてきました。「きた!」と思い、いつも使っているフレーズを伝えました。「男性の体の中には赤ちゃんのもとが半分あって、女性の体の中にも赤ちゃんのもとが半分あって、男性が持っている赤ちゃんのもとを男性のペニスを使って女性の膣(ちつ)の中に届けてあげると、女性のおなかの中で赤ちゃんのもとともとが一緒になって、赤ちゃんになって、それが大きく育ったら、おなかがギューギューってなって生まれてくるんだよ」
それを聞いて息子は「うん、わかった」とすぐ次の遊びにいっちゃった。さらっとでいいんです、子どもは「ああ分かった」で終了。それで十分なのです。
プライベートゾーンの意識がSOSに
―そのフレーズなら、言えそうな気がします。小さいころから伝えてあげるべきこととしては、プライベートゾーンのお話もしていますね。
プライベートゾーンは、「水着でかくれるところ+くちびる」と伝えています。とっても大切な場所で、あなた以外の人に勝手に触らせてはいけない、パンツの中、水着の中は勝手に見ることも許されないし、「見せて」「触らせて」と言ってくる人がいたら「いやだ」「NO」と言っていいんだよ、ということは2歳くらいから理解できると思います。繰り返し伝えてほしいです。
ここ数年、このプライベートゾーンについて伝えることが、子どもを性被害から守ることにつながる、ということが、保護者の中にもずいぶん浸透してきました。私は思春期外来というところで性被害に遭った子どもの診察をしていますが、受診する子の年齢が低くなってきています。その背景には、「プライベートゾーンを見られたり触られたりすることは、おかしいことなんだ」と子どもたちが気付けるようになってきていることがあるのではないかと思っています。
たとえば、20歳の兄からパンツに手を入れられそうになったと母親に訴えた7歳の女の子は、プライベートゾーンのことを習っていました。ですが、同じように兄からの被害に遭っていた10歳の姉は、私の診察室で「初めて聞いた」と。妹の被害に気づいた母親が確認するまで、被害が明るみに出ることはありませんでした。一度でも聞いておくことが、周りにSOSを出せる力になるんだと確信しました。
―私は、息子が精子と卵子の話を聞いた後に「俺ってすごい」とうれしそうに言うのを聞き、学校の先生がとてもいい伝え方をしてくれたのだな、と温かい気持ちになりました。親からの性教育も必要かもしれませんが、それができない家庭もありますし、やはり学校で大切なことは伝えておくべきではないでしょうか。
そうなんですよね。小学校の学習指導要領では、5年生の理科で「人は、母体内で成長して生まれること」を教えますが「受精に至る過程は取り扱わない」という歯止め規定があります。中学校の指導要領でも、3年生の保健体育で性感染症予防としてコンドームについて教えることになっていますが、「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」とあり、セックスを教えずにコンドームについて伝えなくてはならないという事態になっています。
ただ、現場の先生たちの中には「義務教育のうちに一度は伝えておかなくては」という危機感もあり、私のような外部の講師を呼んで、学習指導要領を超えた部分を伝えようという動きが広がっているのです。私の勤務先の地元である埼玉県内ではその動きが活発ですし、東京都でもすべての中学校で産婦人科医などを招いた授業をすることになりましたね。2018年に東京都のモデル授業で中学3年生向けに避妊と中絶の話をしましたが、性感染症について学ぶ3コマの授業のうち、2コマをすでに先生が終えていてくれて、性に関する話をする時間だと理解されている状況だったので、スムーズに進めることができました。
「うちは話していいんだ」の安心感を
―インターネットなどでゆがんだ性の知識を取り込む前に、身近な大人が正しい知識を伝えることは大切ですね。中学生以降ともなれば、予期せぬ妊娠も起こりえます。
思春期になってから、いきなり親から話すというのは相当ハードルが高いと思います。だからこそ、それより前の幼児期、児童期のところで、性に関する会話の積み重ねをしておいて、「うちはこういう話ができるんだ」と子どもが安心感を持てることが必要なのです。それができている家庭だったら、12歳以降の思春期にも親子で話せる可能性が出てくるでしょう。もし、学校での性教育の講演が保護者にも開かれているなら、ぜひ保護者の方にも話を聞いてほしいです。そして、その日のうちに少しでも講演の内容に絡めて、親子で会話してほしいな、と思います。
段階的な性教育はとても大切です。ぜひ小学生親子の会話のきっかけとして、この本を活用してもらえたらと願っています。
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