「たたいてしまった」みなさんのコメントを読んで 育児相談の専門家・帆足暁子さんから気持ちと行動のアドバイス
「子どもをたたいてしまいました。罪悪感で涙が止まりません」
「こんなママで本当にごめんと毎日反省しています」
「たたくよと宣言することで(子どもを)せかすことばかりです。子育ての全てがしんどい」
こうしたコメントからは、日中は母子だけだったり、周囲に助けを求める人や場所がなかったりで、孤独な子育てをしている親たちの切実な様子が伝わってきます。たたきたくないし、怒鳴りたくない。分かっているけれど、なかなかできない―。そんな親たちに帆足さんが伝えたいメッセージとは…。
どの声もとても重い。出口のない悪夢だと思います
-コメントを読んだ印象は。
相談に来る親御さんたちもそうですが、してはいけないことや、どうしたらいいかをよく分かっているのにできないジレンマ、しんどさが伝わってきます。「もうたたかない」と誓っても繰り返してしまう。自分が悪いと責めているお母さんがとても多いですね。
子どもをかわいいと思うのに、怒りが出てくると止められない。毎日毎日、出口のない悪夢だと思います。助けてほしいと思うから、投稿するなどして発信しているけれど、誰も助けてくれない。どの親御さんの声もとても重いですね。
-コメントを読んだり、クリニックで相談に応じたりしていて感じていることは。
なかなか言うことを聞いてくれなかったり、「やって」とお願いしてもしてくれないなど、「育てにくさ」を感じて相談に来る親御さんが多いです。「ヤダー」と叫ばれると、その声だけで親は参ってしまいます。クリニックでも相談に来て「子どもがかわいくない」「母親失格だ」と涙を流す親御さんがいます。「よく頑張っているね、十分だよ」と声をかけています。
「ここまでやってあげたのに」と怒りが出てしまう
子どもの求めに付き合い過ぎているがゆえに、子どもに対して「ここまでやってあげたのに」という怒りが出てしまっている親御さんも結構いると感じました。日本では、母親は子どもの犠牲になって当たり前、と思う人が多いですが、大人も自分がハッピーでいられるところでやめる、という基準で考えていいよ、と私は伝えています。
叱る時もワンセンテンスで「〇〇だから、やめて」と簡潔に言う。一生懸命に理由を説明しても、子どもは「うん」とは言いません。たいていの子は1回言えば分かりますが、「分かる」ことと「する」ことは違う。子どもはその気になるまで変わりません。
たたいた後にどう謝るか 気持ちを整理するハグ
-たたいてしまった場合、子どもへのフォローの仕方はありますか。
子どもたちは親が大好きなので、たたかれたのは自分が悪いからだと思って自分を否定してしまいます。それが子どもにとっては一番つらい。子どもに対して「あなたが悪いのではない」と話し、「ママ(パパ)がどうしてもイライラを抑えられなかった。ごめんなさい」と謝ることが大切です。「あなたが言うことを聞かなかったから」とつい言い訳したくなりますが、言うことを聞かなかった子どもの親が全員、たたいているわけではないですよね。
ただ、子どもに謝ればいいわけではなく、そういう自分に向き合い、子どもをたたかないように努力している姿を子どもに見てもらわなければ親の思いは伝わりません。そしてやはり、子どもをたたかなくなることが基本です。
それから、朝起きた時や夜寝る時は、怒った直後でも、子どもをかわいいと思えなくても、必ずハグして「ママ(パパ)の大好きな〇〇ちゃん、おはよう(おやすみ)」と1日2回言うことを勧めています。ハグすると、幸いお互いの顔は見えませんね。言うことで自分の気持ちの整理もできます。小学3年生ぐらいまでかな。繰り返していくことで、愛情は伝わります。
背景にある自身の傷 向き合うから余計につらい
―コメントには「たたくのは悪い親だ」と思い詰めている人もいました。
話を聞いていくと、たたいてしまう背景には、親自身も傷つけられてきた経験や思いがある人が多い。親自身が「愛されてこなかった」と感じていたり、きょうだいより劣っていると言われてきたりして、何かしら心に傷を抱えている。子育てを通じてそのことに気づき、向き合わざるを得なくなっていることもあります。子どもはまっすぐ、親の傷をつついてくる。だから余計につらいのですよね。
-たたいてしまう→自己嫌悪の悪循環から抜け出すにはどうしたらいいのでしょう。
「親自身がもっと幸せになっていい」。お母さんたちにはそう伝えるようにしています。そして自分がどんな時に、どういうことで怒りが出てくるのか、自己分析して整理する。逆にどんな時は楽しいのか、幸せに感じるのかを考え、見つけていく作業をすること。親自身が傷つけられたことに気づき、整理して、自分が幸せと思える時間を増やしていくことが大切です。
「あなたはどんな時に、幸せだと思えますか?」
育児相談でも「どうしたらあなたは楽しい?」「幸せだなって思える?」という質問を親に投げかけて、どういう時、誰といたら、どういう場面でと、具体的に見つけてもらいます。幼い子どもとの暮らしでは、自分自身の時間を取ることは難しいですが、以前から好きだった趣味、友達とのおしゃべりなど、幸せだと感じられる場面を具体的に挙げてみる。そして、誰かの力を少し借りることで、それを実現できないか考えてみませんか。
こういう投げかけをすると、お母さんたちは「自分の幸せなんて考えたこともなかった」と言いますね。
大事なのは、自分が悪いと思い過ぎないこと。皆さん、初めからたたきたいとか、憎らしいと思っているわけではない。だから、落ち着いている時には子どもがかわいいと思えますよね。たたきたくない、二度としたくないと思う自分がいるだけでいいのです。でも、たたいてしまっていることも事実。それには、そうしないではいられないだけつらいものを親のあなたも抱えているということをまず、自分の中で整理しましょう。
夫が協力しないつらさ まず解消するためには
-夫の協力や共感が得られないという声もありました。
以前、相談に来ていた子どもから「人を変えることはできません。コントロールできるのは自分の心だけです」と聞き、育児相談とは別の話でしたが、とても納得したことがあります。
育児でも、夫婦で子育てしていれば協力することが必要で、夫が期待に応えてくれれば一番。でも、言えば言うほど責められている、と感じて、逃げるか、攻撃してくることもよくあります。追い詰めるとよくありません。期待して、やってもらえないのはきついですよね。それなら、まず今のつらさを解消するために、期待しないで別の方法を考えた方がいいと私は思います。
-自分の気持ちをなかなか整理できないという人はどうしたらいいですか。
子育て中は、自分のことがつい後回しになりがちですが、子どもと同じくらい、親は自分を大事にしていいのです。整理できない時、自分はどうしたら幸せか常に問いかけてみてください。しんどいと思うなら、自分と向き合う時間をぜひつくった方がいいと思います。
「外に見せない」のも自分を守るすべだけれど
たたいて自己嫌悪を繰り返す場合や、堂々巡りになってしまう人は、医師や心理の専門家など、プロの手も借りてほしい。親子関係の悩みであれば、小児科の育児相談を利用することもできます。育てにくいと感じる子どもに発達障害などが潜んでいることもあります。専門家もいろいろな人がいるので、自分に合う人を見つけるまで探していいのですよ。
一方で、助けてほしいけれど、そういう自分を知られたくないから、相談したり、つながろうとしない人もいます。外に出るといいお母さん、お父さんでありたい、という人がいても、それもまた自分を守るすべです。いろいろな理由を付けて、外に出ないで自分を守っている人もいます。それはそれでいい。でも、ぜひ信頼できる人を得る努力をしてほしい。そうすれば、動きだそうと思った時に自分を助けることになると思います。
帆足暁子(ほあし・あきこ)
公認心理師・臨床心理士。東京都世田谷区の小児科「ほあしこどもクリニック」副院長として、長年、子育て相談や心理相談で多くの親子に向き合う。専門は、乳幼児発達臨床心理、保育臨床、子育て支援、子どものメンタルヘルス。幼稚園教諭や保育士の資格も持ち、大学で保育者の養成にも携わる。「愛着」や「気になる子ども」をキーワードにした講演を全国で行っており、著書に「0.1.2歳児 愛着関係をはぐくむ保育」(学研プラス)など。
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