女優 朝海ひかるさん 厳しい父に内緒で宝塚受験 家族会議で「他の芸能界なら許さないけど…」

五十住和樹 (2021年3月7日付 東京新聞朝刊)

家族の応援を受けた宝塚時代について話す女優の朝海ひかるさん(木口慎子撮影)

しつけに厳しかった父

 5歳からモダンダンスやクラシックバレエを習っています。NHKのバレエ番組を見ていた母方の祖母が、その場で「バレエを習わせて」って電話をしてきた。受けた母は「分かった分かった」。父は「バレエなんか習って何になる」みたいなことを言いましたが、母はずっと続けさせてくれて。母には感謝しかないですね。そのおかげで宝塚歌劇団にも入れて、今の人生があるんだと思います。

 父は「ザ・昭和のおやじ」みたいな人。しつけにも厳しくてテレビはNHKだけ。バラエティー番組など見せてもらえない。「8時だョ!全員集合」や「タケちゃんマン」(フジテレビ系のバラエティー番組のキャラクター)とか全然知らなくて学校の話題についていけなかった。でも、父はバレエ教室への送り迎えはずっとやってくれました。

宝塚合格で、家族会議

 宝塚を受けるときも父には内緒で、母と二人で履歴書を書いて送ったんです。二次試験に行く朝、寝ていた父に「ちょっと宝塚を受験しに行ってくる」と告げ、父が「え、えっ」って言ってる間に「いってきまぁす」。

 「どうせ落ちる」と思っていたけど受かった。流れるまま制服の採寸をされ、着物も買っちゃって。お母さんに「入るも何も、こっちでまだ決めてないのに」とすごく怒られました。帰ったら即、家族会議。お父さんは「他の芸能界なら許さないけど、宝塚は『清く正しく美しく』だから許す」。芸名も父がひらめいて決めてくれました。

 お母さんは「着物のお金とかどうしよう」と頭を抱えていましたが、父はうれしそうに親戚全員に電話して。両親がずっとバレエの月謝を出してくれて、それを無駄にしないでこれから生きていけると思ってホッとしました。

仲良く観劇に来た両親

 両親は公演のたびに東京に来て、舞台を見に来てくれました。銀座などに行くのを楽しみにして。いつも二人で行動する仲がいい夫婦でした。父が2年前に他界して母は最初は寂しかったようですが、一人で気楽に楽しんでます。好きなテレビを見て、好きな料理を作って好きな時間に好きなだけ食べる。それまで父が見たい番組しか見られなかったから。女性って強いな、って思います。

 母は今、79歳。上京しての観劇は難しいので、プログラムや舞台のDVDを送っています。母はお父さんの仏壇に飾って、スマホで写真を撮って送ってくれるんです。今度のこまつ座の舞台はハードな身体表現もあって今までとは違う。母からどんな感想をもらえるのか。「娘も役者として成長したな」と思ってくれるんじゃないかな。

朝海ひかる(あさみ・ひかる)

 1972年、仙台市出身。1991年に宝塚歌劇団に入団し2002年、雪組男役トップスターに就任した。2006年に退団後も舞台やミュージカルなどで活躍。3月28日まで東京・新宿の紀伊國屋サザンシアターで開催中のこまつ座の舞台「日本人のへそ」に出演中。