PTAは「人権問題の警報が鳴りっぱなし」 自称”改革の負け組” 川端裕人さんに聞く現在地
〈インタビュー編・中〉
良心を放棄しないとやり過ごせないような現場
―改革に失敗したのは、なぜなのでしょうか。
周囲を納得させられませんでした。「入退会は自由だ」と僕が言っても、役員ですら「聞いたことがない」という人ばかりで、説明しても「そんなはずはない」「そうは言っても現実は違う」と言われるような状況でした。「そんなに不満なら、転校する手もある」という提案も受けました。
委員のなり手がいなくて強引に決めざるを得ない状況を止めようにも、かつてその「被害」に遭った人たちが今度は「加害」に回ります。人の嫌な面をたくさん見たし、自分自身も嫌な面を見せたと思います。良心を放棄しないとやり過ごせないような現場で、精神的にもつらかったですね。「苦労したけれど、いい経験だった」とポジティブにはとても振り返れません。だから、「負け組」と言っています。PTAで良い体験を一切できなかったという意味で。
「入退会自由」整えても、差別や排除は絶えず
―この10年で何が変わりましたか。
一番は、当時は認識すらされていなかった「任意加入」の原則、つまりPTAは入退会が自由だということが広く知られたことです。背景には、途中で挫折した人を含め、各地で上げ続けた声の積み重ねがあると思います。今はPTA役員や校長でこの原則を知らない人は、まずいないんじゃないでしょうか。「入退会自由」とはっきり打ち出し、加入届を整備したところも増え、早期に対応しなければと考えているところも多いでしょう。
もっとも、知らないわけじゃないけれど、特にそれが問題とは思わない人たちは普通にいると思います。それまで学校にもPTAにもかかわったことがなかった人が、いきなり会長になって、PTAに適応できている役員たちとしか接触がない場合など、「入退会自由と言う人はアンチ(対抗勢力)」のように思うかもしれません。
そんな場合、「入退会自由」という形だけを整えても、実際の運用は前と変わらないということもあります。それどころか、登校班外しや、PTA主催のイベントに参加できないなど、非加入の子どもへの差別や排除はあちこちから報告されていて、本当にひどい話だと思います。そういう排除の論理に至ってしまう人たちは、その人たち自身、追い込まれてしまっているのかもしれませんが、実は、一番、PTAみたいな団体をやってはいけない人たちです。PTAは加入・非加入を問わず、全ての児童・生徒のための活動をするという、団体の本来の趣旨を理解していないのですから。
非加入を選択した人は、適正化に貢献している
―そんな中でも、非加入を選ぶ人が出てきています。
「やらない」という選択をした人は、流されるままに会員であり続ける多くの人よりも、PTAの適正化に貢献していると思います。非加入や退会を選ぶことで、これまで見えなかった問題を可視化してくれているわけですから。現場に踏みとどまってPTAを改善しようとする人たちと同じくらい僕は尊敬し、感謝しています。両者の問題意識は重なる部分があり、状況が違えば互いの立場は逆かもしれないんですよ。
―「改革」の要望にも、いろいろあります。
今の会長らは非常に厳しい立場に置かれています。任意加入の周知など「まともな運営」が求められる一方、「コミュニティーを活性化するような活動」も同時に求められているわけですから。「PTAが中心になって、保護者や地域の強いつながりをつくる」というような理想を語る人もいます。そういった夢を見ること自体は、僕は否定しません。
ただ、日本のPTAは、ずっと人権問題の警報が鳴りっぱなしのまま来てしまっているんです。現状では、とにかく、「やりたくない人」「できない人」の緊急避難の道を確保してから、夢を見てくれと言いたいですね。
その上で、「やりたい人」「できる人」に機会を開くような活動からこそ、力強いコミュニティーができるのではないでしょうか。僕自身、保護者として学校とかかわった十数年のうちで、子どもたちのために現実的に役立つ活動ができたのは、PTAではなく、読み聞かせのグループや、カジュアルな学級単位のLINEグループなどがきっかけになったものでした。特に、学級崩壊、授業困難、担任によるハラスメントの問題に対して、PTAは無力でした。
いまだに「入退会自由をうたうと担い手がいなくなる」と心配する人がいますが、それでPTAがなくなった報告はありません。むしろ「PTA、強すぎ」という印象です。同調圧力的な要素は相当しぶとく残っています。
幸い、この10年間、各地でPTA運営の改善の事例が増えてきました。参考にできる経験の積み重ねがあるのは心強いことです。ただ「任意加入の周知」の仕方一つとっても、導入を目指す人同士で踏み出す方向や順番が違うと、互いに批判しあうこともでてきます。進め方に正解はなく、根っこの部分の問題意識を共有して進んでいくことが大事だと思っています。
川端裕人(かわばた・ひろと)
1964年、兵庫県生まれ、千葉県育ち。2007年から世田谷区立小学校のPTA副会長を2年務めた。都立高校PTAでは広報委員の経験も。小説は、少年の成長を描いた「川の名前」(ハヤカワ文庫JA)、「今ここにいるぼくらは」(集英社文庫)など。
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