PTAは「実は戦前組織の”看板の塗り替え”です」 岩竹美加子さんが指摘する悪弊の背景

(2019年10月8日付 東京新聞朝刊)
〈インタビュー編・上〉
 PTAを巡る問題を考える時、「戦前の学校にあった組織との連続性に着目する必要がある」と指摘する研究者がいます。フィンランド在住で、PTAの歴史的背景を論じた「PTAという国家装置」(青弓社)の著書がある岩竹美加子さん(63)=ヘルシンキ大非常勤教授。PTA改革に必要な視点を聞きました。

PTA問題について答える若竹美加子さん

「母の会」「大日本連合婦人会」との連続性

 -PTAは戦後に広がった組織。教育の民主化の果実ではないのでしょうか。

 占領期に連合国軍総司令部(GHQ)が主導した組織だと思っている人が多いですが、それは「PTA(父母と先生の会)」という名前だけのこと。むしろ、1920年代から当時の文部省が家庭教育振興のため、各小学校に設置を目指した「母の会」や、30年に同省が創設した「大日本連合婦人会(連婦)」との連続性に着目すべきです。戦後、PTAを組織化できた背景に、戦前に設けられた母の会などの存在があり、「看板の塗り替え」だったことは日本PTA全国協議会も認めています。

岩竹美加子さんの著書「PTAという国家装置」

 -今のPTAに何が引き継がれているのですか。

 母の会も連婦も「母親の奉仕と修養」を名目に、女性を国家総動員体制に組み込むことを狙った団体。町内会に結び付けられ、言われたことに従わせられたり、学校の「下働き」をさせられたり、自分たちに決定権がない今のPTAにつながります。「強制加入」問題や、「あの人は楽をしてずるい」などと足を引っ張り合うPTAの悪弊には歴史的な経緯があるのです。

「共働きが増えて大変」では根本解決できない

 -各地でPTA改革の動きが出てきています。

 PTAは任意の市民組織なので、行政や国の介入は許されない。よって行政や地域の「下請け仕事」をする必要はないんです。「共働きが増えて大変。業務を簡略化しよう」では小手先で根本解決にならないと思います。

 -フィンランドにPTAのような組織はありますか。

 「親達の組織」という保護者組織があります。学習環境の向上のため行政に要求したり、先生と話し合ったりします。やりたいと考える親が集まるだけで加入率は10%程度。すべての学校にあるわけでもない。独立組織で、上部組織や行政の口出しはあり得ませんよ。

今の枠組みでは結局、現状維持…危機感が必要

 -学校と向き合う親の団体は必要です。PTAではダメでしょうか。

 行政の言いなりでなく、ものを言える組織が必要です。学校で起きている課題に対して意見を伝えたり、親が感じる問題を話し合ったりできる団体であればいいですね。その場合、学校単位の団体で十分。地域や全国の上部組織などはいらないと思います。

 -改革のうねりを進めていくためには、何が必要でしょうか。

 解決へ声を上げている全国の人たちがネットワークをつくって取り組むのはその一つではないでしょうか。「子どもを学校に通わせる親が抱える問題」を社会問題として可視化すべきです。100年近く前から続く根が深い問題。今ある枠組みの中での改革では結局、延命や現状維持になってしまう、ぐらいの危機感で議論することが必要だと思います。

岩竹美加子(いわたけ・みかこ) 

 東京都生まれ。息子の小学校でPTA非加入を許されなかった体験などが、PTA問題を論じるきっかけに。ヘルシンキ大教授などを経て、終身の名誉タイトルである同大非常勤教授。著書に「フィンランドの教育はなぜ世界一なのか」など。

 PTAを巡る議論が活発になっています。さまざまな角度で提言する「論者」のインタビューを3回に分けて伝えます。次回は10月11日の予定です。

 
〈インタビュー・中〉はこちら↓
「PTAは人権問題の警報が鳴りっぱなし」 自称”改革の負け組”川端裕人さんに聞く現在地

〈インタビュー・下〉はこちら↓
 

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年10月8日

コメント

  • 本地域には女性ネットワーク(通称「女ネット」)という組織&活動があります。女性の社会進出とその地位の向上が当初の御旗だったように思います。 しかし共働き家庭が増えてきた昨今、会合や行事を平日の昼間に
     
  • コロナの休校を機にもっと報道して欲しい。 大津市や埼玉のは未加入世帯の子どもを区別してはいけない、PTAはボランティアでその支援対象は全児童だと教員委員会が通知を出している。自治体ごとに子どもの取り