〈アディショナルタイム〉子どものスポーツ、親が熱くなり過ぎていませんか? 「身代わりアスリート」にしないために
会社員の草野拓也は9歳の勇翔(ゆうと)のことが心配でたまりません。少年サッカーチームに入団したというのに、一向にうまくなろうとしないからです。高校までサッカー部だった拓也は、試合にほとんど出られないのに悔しさを見せない勇翔にいら立ち、叱り、厳しく指導するようになります。
あるとき拓也は、無理を承知で勇翔にJリーグの下部組織の入団テストを受けさせます。案の定、結果を残せない勇翔に「おまえはへたくそなんだよ」「この場所で味わった悔しさを絶対に忘れるな」と言い、奮起を促す拓也。勇翔は泣きながら、自分の気持ちを書き留める「サッカーノート」を付け始めるのです。
「こんどからはボールをこわがらない。わらわれない」「もくひょう。つぎの大会までにレギュラーになる」。期待に応えようとけなげに頑張る勇翔に胸が締め付けられる一方、徐々に指導にのめり込んでいく拓也にハラハラします。ダメ出しを繰り返す姿は、まるで自分を見ているようで恥ずかしくなりました。
他の保護者との距離感、コーチの起用法への不満、夫婦間の温度差など、リアルな「スポーツ親あるある」が描かれているのは、少年サッカー小説を得意とする作者ならではのもの。中でも特にハッとさせられたのは「身代わりアスリート」という言葉でした。
文中では、親やコーチに自分の果たせなかった夢を託された子どものことを「身代わりアスリート」と呼び、警鐘を鳴らしています。過度な期待を周囲から背負わされ、応えられず、競技から離れてしまう子どもがいるという事実。過干渉という言葉では片付けられない問題がここに記されています。
「どうしてちゃんとできないの?」「いいかげんな気持ちでやっているなら、やめてしまいなさい」。子を思うがゆえの厳しいしつけは、多くの親が一度は経験しているはず。しかし、子どもがスポーツをする楽しさを感じられなくなってしまっては元も子もありません。
指導と虐待の境目はどこなのでしょうか。子どもとの向き合い方を見失ったとき、どうしたらいいのかを、この本は教えてくれます。心当たりのあるパパ、ママはぜひ読むべし。読み終わった後、何かが変わっているはずです。
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