男性の育休制度は”世界一”充実してるのに…「職場に迷惑」と取らない男性も 法改正でどう変わるか
変わるか男性育休〈上〉
父親が育児のために休みを取りやすくする改正育児・介護休業法が6月、国会で成立した。女性に偏りがちな育児や家事を夫婦で分担することで、少子化に歯止めをかける狙いがある。男性の育休取得が進むと、企業や働き方、子育てはどう変わるのか。
部下が相談してきたら「まずは祝福」
「おめでとう! 出産の予定はいつごろ?」
2年前の夏、ITシステム大手「日本ユニシス」(東京)。「育休を取りたい」と相談をしてきた男性の部下に、三浦惇さん(39)は笑顔で声を掛けた。
前年、管理職に昇進したのを機に受けた社内研修で、育児や介護、病気など社員が抱える事情は一人一人違うことを胸に刻んだ。育休を取りやすい環境づくりは、多様な働き方を実現する手段の一つ。「まずは祝福することが大事」と説明された。不安や緊張を和らげ、相談しやすい場をつくるためだ。
何度も話を聞く機会を設け、部下は数カ月間の育休を取った。その後も2人から相談を受けたが「自分からぐいぐい話を進めたりはしない」。育休を取る、取らないは、本人の意思だ。「出産後に手伝ってくれる人はいるか」「育休の取得を考えたことはあるか」など議論を重ね、希望をかなえるよう心掛けている。
法改正で「働きかけ」が企業の義務に
法改正の目玉の1つは、来年4月から企業に義務付けられる育休取得の働きかけだ。男女関係なく、従業員に子どもが生まれる場合は、利用できる育休制度を説明し、取得するかどうかを確認しないといけない。
育休は法律で定められ、子が1歳になるまで取得できる。しかし、厚生労働省によると、2019年度の男性の育休取得率は7.48%で、女性の83%とは差が大きい。期間も18年度調査では、女性の約9割が6カ月以上なのに対し、7割以上が2週間未満だった。
日本ユニシスの取引先は業種も価値観も多岐にわたる。変化の激しい業界で、1958年創業と歴史のある同社がそうした企業に選ばれ続けるには、仕事以外に豊かな人生経験を持つことが欠かせないという経営陣の危機感が、15年度からの改革に結びついた。
取得が増えたら職場の雰囲気に好影響
管理職の戸惑いは大きかった。意識を変えようと地道に研修を実施し、上司、部下役などに分かれ声掛けのロールプレーイングも。成果は少しずつ表れ、男性社員の育休取得率は11.7%から20年度は26.7%に。平均日数も20日以上長くなり、99日になった。育休に限らず、誰もが休みを取りやすい雰囲気が生まれ「仕事を補い合う職場に変わった」と三浦さんは言う。コロナ禍でも業績を維持している。
今回の法改正では、他にも
- 子の誕生から8週間以内に最大4週間、2回に分けて取れる「男性版産休」の新設
- 男女とも育休を2回まで分割
―といった変更が盛り込まれた(下の表)。
人材確保、定着させたい企業にも利益
ただ、中小企業を中心に懸念されるのは、代わりの人員の確保だ。東京大大学院経済学研究科教授の山口慎太郎さん(45)は「育休中は雇用保険から給付金が支給され、賃金を支払う義務はない。その分で人を雇ったり同僚の残業代を払ったりもできる」と提案する。
その上で「全ての企業が高い給料を出せるわけではない」と指摘。仕事とそれ以外の時間とのワークライフバランスを重視する若者が増える中、「育休制度が整っていることは、人材を確保、定着させたい企業の利益になる」と言う。
「法改正も後押しし、育休を取る人が増えるのは間違いない」
取りたい若者は増加、しかし取得率は伸びず
近年、育休を巡る若い男性の考え方は大きく変化している。2017年の春・秋の新入社員を対象に、日本生産性本部が実施した調査によると、「将来、育休を取得したい」と答えた人は春が69.1%、秋が79.5%。12年と比べ、7.4ポイント、12.7ポイント上昇した(下のグラフ)。
コンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」社長で「男性の育休」などの著書がある小室淑恵さん(46)は、この世代の親は共働きが多いことを理由に挙げる。「両親の家事分担が不公平なのを見て、自分は育児に参加したいと考えたのでは」と言う。男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年。以降、女性の社会進出が進み、1992年には共働き世帯が初めて専業主婦世帯を逆転した。
OECD42カ国で最も充実 収入の8割保障
2018年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、主な42カ国で比較した場合、男性向けの育休は日本が最も充実している(下のグラフ)。取れる期間が長い上、雇用保険から給付金が支払われ、社会保険料の免除も受けられるため、休業前収入の約8割が保障される。
取りたい若者が多い、制度も充実している。なのに取得率が伸びない。内閣府が6月に発表した20~30代の既婚男性642人への調査結果では、「取得しない」が4割で最多。取りたいが1カ月未満とした人を合わせると、約7割に上る。理由は複数回答で「職場に迷惑をかけたくない」が42.3%で最も多く、「取得を認めない雰囲気がある」が33.8%で3位だった。
育休を取ると、その後も効率よい働き方に
1000社以上をコンサルティングしてきた小室さんは「日本企業の課題は、その人がいないと仕事が回らないシステムになっていること」と指摘。「仕事の進め方、情報共有の在り方に根本的な問題がある」と話す。
一方で、男性育休の取得を進めた企業からは「どれが本当に必要な業務かを見直すきっかけになった」と評価する声が上がるという。「育休を取ると、その後も育児に関わるために早く帰りたいと、効率よく働いて生産性を上げようと工夫する」という効果も。
長時間労働をなくそうと2年前から進む働き方改革で、企業側も時間当たりの生産性が高い人を評価する方向にかじを切った。小室さんは「育児に限らず、制約のない人はいない。職場が変わることが求められている」と力を込める。
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女性社員には生理休暇や育児休暇があり、何かあればセクハラだのパワハラなど問題になりやすい。
同じ給料を出すのであれば、多少の不満には目をつぶって多く働いてくれる男性社員の方が、企業にとっては使いやすいのだろう。
それに加え、休暇を取られれば取られるほど会社の生産力が落ち、採算が取れなくなるので値段も上がり、価格競争に敗北するなどの不利益がある。
これはやはり、一律で労働時間の上限を設け、休暇の日数も厳守させ、違反すれば厳しい罰則が適用されるなどの決め事が必要となる。
男性育休推進などの働き方改革は、制度だけ整備しても進みません。特に経営トップと幹部、管理職の意識改革が必要です。そういう点で、経営者が気にする法律の改正は大きなきっかけになると思います。これを機に、中小企業経営者向けのセミナーや、管理職向けイクボス研修を積極的に展開する必要があるのではないでしょうか。