真矢さんの正義感を受け継ぎいじめ防止活動 川崎中3いじめ自殺十三回忌 両親の悲しみと未来への取り組み

北條香子 (2022年6月8日付 東京新聞朝刊)
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篠原真矢さんの遺影を手に思いを語り合う宏明さん(左)、真紀さん夫妻=川崎市麻生区で

 川崎市立中学校の3年生だった篠原真矢(まさや)さん=当時(14)=が友人をいじめから守れなかったと悔やむ遺書を残して自殺し、7日で12年を迎えた。父の宏明さん(57)と母の真紀さん(56)は真矢さんの思いを継いで、学校からいじめをなくすための活動に取り組んでいる。この日、十三回忌法要を終えた2人は癒えない悲しみを抱えながらも「前を向いて笑って生きなければ」と思いを語った。

遺書に「友人をいじめから守れなかった」

 真矢さんの当時の同級生は26、7歳になったが、命日に合わせて自宅を訪ねてくれる子らも多い。真紀さんは「社会人になり、みんな頑張っている。子どもがいる子もいるんですよ」とほほ笑む。

 真矢さんが遺書で「護(まも)れなかった」とした友人も就職して神奈川県外で暮らしているが、帰省すれば顔を見せてくれる。「彼らの幸せを見守るのが楽しみ」という。

 事件後、いじめ調査は川崎市教育委員会が中心となって行った。内部調査では不十分に終わることが多いとして、2013年のいじめ防止対策推進法施行後は、第三者委員会による調査が推奨されているが、宏明さんは「人生を前向きに捉えることができたのは、内部調査でしっかり寄り添い、真実を明らかにしてもらったからこそ」と振り返る。


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 当時の担当者らは同級生らへの聞き取りと並行し、真矢さんが愛読していた漫画も読むなどして自殺に至った心境に迫った。約3カ月後にまとめられた報告書では、真矢さんと友人が「いじり」と称していじめを受けていたこと、正義感の強い真矢さんが心の葛藤を抱えていたことなどがつづられた。

いじめや学校事故を調査する団体設立

 「真矢は両親を苦しめるために死んだわけじゃない」と2人は言う。真紀さんは「私たちのように遺族が納得できる調査報告書が出ることは貴重と言われるが、他でもできると言っていかないと」と力を込める。

 こうした体験から、宏明さんと真紀さんは2017年に設立した一般社団法人「ここから未来」で、いじめや学校事故などの調査や研究に取り組んでいる。

 川崎市教委も真矢さんの死を受けて2011年以降、毎年6、7月を「児童生徒指導点検強化月間」とし、全市立校にいじめを含めた学校生活アンケートなどの実態調査や校内研修に取り組むよう呼びかけている。

 真矢さんは遺書に、加害生徒への「復讐」の念を書き残した。宏明さんは「加害者を許せない気持ちはずっとある」としつつ、「いじめ防止に取り組んでいくことが、加害者への復讐にもなる」と考える。

 真紀さんも「同級生の顔色をうかがい、びくびくして過ごすことがない環境を目指していた真矢の思いを実現していきたい」と願っている。

川崎市多摩区の中学生いじめ自殺事件

 2010年6月7日、川崎市多摩区の市立中学校に通っていた篠原真矢さんが自宅で自殺した。市教育委員会を中心とする調査委員会は同年8月、遺書で実名が挙がった4人による真矢さんと友人へのいじめを認定。4人のうち3人は暴力行為処罰法違反の疑いで書類送検、家裁送致され保護観察処分となり、残る1人は児童相談所に通告された。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年6月8日

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