ただでさえつらい流産 「妊娠12週」の境目でさらに苦悩 産休や出産手当金の基準があいまい 経験者が改善求める

(2023年3月1日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
写真

昨秋、流産を経験した夫妻。その後、妻は産休に入ったが、出産手当金の支給申請が進まず、「不安な日々だった」と振り返る=関東地方の夫妻の自宅で

 働く女性が流産や死産をした場合、妊娠12週(4カ月、85日)以降であれば、産後休業の取得やそれに伴う出産手当金の支給といった法的なサポートを受けられる。しかし、12週未満で心拍が停止したとみられる胎児が、12週以降に母体から出てきた時に、支援の対象となるかは明確に示されていない。ただでさえつらい経験。当事者の夫婦は「誰にでも分かるように示してほしい」と訴える。

「心拍停止は9週」医師に申請を断られ

 「胎児の心拍が停止したのが9週とみられるため、体外へ娩出(べんしゅつ)されたのが12週以降であっても、申請書類への証明はできません」。昨秋、第2子を流産した薬剤師の秋田望美さん(37)=関東地方在住、仮名=は医師の言葉に耳を疑った。

 その1カ月ほど前、妊娠12週3日(87日目)の超音波検査で、医師から「胎児の心拍が確認できない」と告げられた。帰宅後に胎児が体外に出てきたため再受診。医師は胎児を9週相当の大きさと判断した。

 職場に流産を伝えると出産予定日を確認された。予定日からさかのぼると妊娠12週を超えていたため、「法律上は産休の対象なのできちんと8週間休んでください」と言われ、産休に入った。

 望美さんは後日、職場から「出産手当金と出産育児一時金の支給対象なので申請書類に医師の証明をもらってくるように」と連絡を受けた。医師に頼んだところ、冒頭のように断られ、「産休も取ってはいけなかったの?」とパニックになった。

またぐ場合 厚労省のサイトに説明なし

 産休は労働基準法で、出産手当金と出産育児一時金は健康保険法でそれぞれ定められている。ともに妊娠4カ月(12週)以降の分娩(ぶんべん)が対象で、流産・死産も含む。厚生労働省はこれまで周知不足だったとして、サイトを充実させてきた。

◇厚生労働省のWebサイト「流産・死産等を経験された方へ」→こちら

 しかし、今回のケースのように胎児の子宮内死亡と体外に出た時期が12週の境目をまたぐ場合の扱いについて、判断の参考になるような説明や事例の案内はない。

 望美さんと夫(38)は職場や健康保険組合とともに、地域の労働基準監督署や地方厚生局保険課に相談。最終的に医師は申請書の「出産日」の項目に二重線を引いて「排出された日」と書き換え、「妊娠9週流産、但(ただ)し排出された日は4カ月(12週)」と記載した上でサイン。出産手当金と出産育児一時金が支給された。

「同じ思いをする人が出ないように…」

 日本産婦人科医会によると、子宮内死亡と体外に出た時期が12週をまたぐケースは少なくない。宮崎亮一郎・法制担当常務理事は「厚労省などのサイトには最終的な基準が書かれていない」と指摘。その上で、「医師が9週(で成長が止まった)と診断した今回の例は、本来は制度の対象にならないはずだ。出産予定日は、あくまでも妊婦の最終月経日などから推測した『予定』にすぎず、その日から逆算して割り出した妊娠週数と、実際の胎児の状態に基づいた医師の判断とは異なることがある」と説明する。

 厚労省の産休の担当者は「産休を取るにあたり、法律上、書類や証明の提出は求めていない。あくまで各企業が設けているルールで判断を」と語る。一方、厚労省保険課の担当者は、出産手当金と出産育児一時金の支給について「妊娠12週以降かどうかは、最終的に医師が胎児の状態から総合的・医学的に判断することになる」と回答。「今後、こうしたケースが多ければ、対策を検討する可能性はある」とした。

 秋田さん夫妻は「流産後という精神的、肉体的に大変な時期に、法的サポートを受けられるか否かはっきりせず非常につらかった。今後同じような思いをする人が出ないよう、私たちのようなケースの運用について、厚労省は医療従事者や企業、妊産婦への周知啓発に努めてほしい」と話す。

4

なるほど!

8

グッときた

10

もやもや...

3

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • says:

    昨日今日でまさに同じ経験をしました。昨日12週を超えて流産手術、本日医師に産休取得について相談したところ、排出された胎児は10〜11週相当であり、記事後半の法制担当常務理事の言葉「出産予定日は、あくまでも妊婦の最終月経日などから推測した『予定』にすぎず、その日から逆算して割り出した妊娠週数と、実際の胎児の状態に基づいた医師の判断とは異なることがある」と同様のことを言われ、あらゆる書類にサインをいただけませんでした。

    同じく記事後半の法制担当常務理事の言葉「医師が9週(で成長が止まった)と診断した今回の例は、本来は制度の対象にならないはずだ。」の点について、それでも制度の対象となった秋田さんと、対象外となった私やその他多くの方々との差異は何だったのでしょうか。事前に知ったこの記事の内容を医師に伝えても覆らず、流産の悲しみに加えて虚しさが溢れています。知らぬが仏だったかもな、と。。

    り 女性 30代
  • みー says:

    つい先程お腹の子とお別れをしてきました。約8週目で死亡なので今日で12週と3日あたりになりますが、そんな診断はできないと断られました。
    願っていた妊娠をこういう結果で迎えてしまって精神的にも辛い中、「そんなこと言う人初めてだよ、そんなことする病院ないから」と冷たくあしらわれ、今まで優しかった先生がいきなり豹変してびっくりしました…

    みー 女性 30代
  • たこ says:

    もう数年前になりますが、初めての妊娠がまさにこのケースでした。突然の流産で大きなショックを受けているなか、会社からは医師の診断書がないと産後6週間での復職が認められないと言われ、再度病院を訪れました。

    すると医師からは「え?診断書が必要なんですか?普通によくある妊娠初期の流産なのですがそれくらいで診断書が必要ですか」と言われ、その言葉にまたショックを受けました。医師も不味い言い方をしてしまったという顔をしていましたが、癒え始めていた傷がまたえぐられた気がして、また家で1人泣きました。この記事を読んで辛かった日々を思い出してしまいました。

    法律は解釈の余地を残すべきだと思いますが、よくあるケースは例として基準を明確にしておくべきだと思います。それが、現場の混乱と手間を避けて当事者一人一人により寄り添う給付につながるのではないかと思います。

    たこ 女性 30代

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ