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自立、寂しさ、危険なもの…中学生に伝えたいセックスのこと〈後編〉都教委モデル授業から

 八王子市の都立南多摩中等教育学校で実施された産婦人科医・長岡美樹さんによる性教育のモデル授業では、変化の途上にある生徒たちの体についての知識や配慮すべきことも詳しく伝えました。保護者のみなさんだけでなく、中学生のみなさんにも是非読んでもらいたい内容です。(前編はこちら

「正しい知識を持ってほしい」と性教育のモデル授業に取り組む長岡美樹さん=東京都八王子市で

つらい生理時の体調不良 男子もいたわりの心を持って

 長岡さんは「男子にも覚えていてもらいたいのだけれど、生理で病気と呼んでもいいくらいの体調不良が起きることもある。いたわりの心を持って接するようにお願いします」とまず男子に呼びかけました。

 女子に対して伝えたのは、我慢は禁物、ということ。「生理の前にイライラする、甘い物が食べたい、むくんで仕方ない、というのは医者から見れば病気です。月経困難症や月経前症候群といった病名もあります。悩んだりイライラして自己嫌悪となる人は、病院に相談に来てください。生理痛がある人の7割に将来、子宮内膜症になるリスクがあるので、生理痛がひどくて学校に来ても保健室に直行、というような人はぜひ相談してほしいと思います」

何度でも伝えたい「プライベートスペース」の重要性

 異性などへの関心が強まる年頃の中学生。長岡さんはあらためて、人と人との適切な距離の取り方についても話しました。「水着で隠れる部分というのは、体の中で最も大事。自分のものも、人のものも大事。勝手に見たり触ったりしてはだめですよと、今さらですけれど強く繰り返します」と強調しました。

 「人が心地良いと感じる距離というのがちゃんとある。1.2メートル。電車でも座席があいているのにわざわざ隣の人に詰めたりしないよね。『密接距離』と言われる45センチは『恋人の距離』です。例えば『元気~?』と体をもんだり、髪の毛きれい、と引っ張ったりすることは、自分は何の気なしにやっていても相手はすごく嫌な思いをすることがある。相手が嫌な思いをもしかしてしているかなと思い出す瞬間がときどきあればすてきかなと思います」

6、7割は包茎です。問題ないから、だまされないで!

 男子の悩みごと相談で出てくる包茎。長岡さんは「日本人の6、7割は仮性包茎といわれています。決して仮性包茎だからもてないとか男としてダメということはありません。雑誌の後のほうの広告とかにだまされないで。ああいうのにだまされて病院にいっちゃうと50万、60万円取られちゃいますから」と注意喚起。「意外と女の子は『なんのこと?』と、知らないんです。男の子は気にするけれど、全然問題ない。本当に悩んでという人は、泌尿器科に相談すると白黒はっきりつけてくれます。持ち物よりも持ち主ですよ!」

マスターベーションはしてもいいけど、優しくね

 話題はマスターベーションへ。「セルフプレジャーという言葉のほうが適している」と長岡さん。最近では、刺激が強すぎるマスターベーションを続けていることで、生身の相手とでは感じにくくなりセックスができなくなる膣内射精困難症という病気が広がっているといいます。「そういう病気があると知られていないのでわざわざ言いました。すごく強く押しつけたり、にぎりすぎたり、角っこにぶつけたりということをするとこういう病気になっちゃう。してもいいけれど、優しくしてねというのがお願いです。マスターベーション、女の子もあり。もちろんばかになったりしません」

AVは都合の良いフィクション。まねしないでほしい 

 レイプなどの性暴力を引き起こす原因にもなっていると指摘されているのが、アダルトビデオ(AV)などの影響だ。最近はスマホの普及で、子どもたちがより過激な情報に接してしまうことを不安に思う親も多い。

 長岡さんは「夜中ちょっとエッチな画像を見たい、ということもあると思いますが、AVとかポルノは激しい描写が多いし、都合良く作ってあるのがすごく困る。正しいセックスを学べないので、ああこんなふうか、とすり込まれて大人になっちゃうと、うっかり映像で見たのを真似してしまったりする。女の子もそういうものだと思ってしまう。でも、そんなことはありません。お互いが怖い、とか痛い、とか思うセックスは良いわけがありません。セックスはコミュニケーションの問題ですから、決してまねするなよ、というのは声を大にして言いたい」と話しました。

 裸の写真や動画などを携帯端末で送る「セクスティング」も10代に広がっている。セックスとテクスティング(携帯電話のSMSで短いメッセージを送ること)の造語です。長岡さんは「うっかり画像を送ってしまうと、自分は削除しても相手が拡散してしまえば世界中を巡ってしまって取り消すことはできません。その人との関係がうまくいくようにという一心でやっちゃうかもしれませんが、すごく危ないからやめてね」と注意を促しました。

大人になりつつある君たちへ「思春期は大変だけど…相談してほしい」

 長岡さんが授業の最後に生徒たちに贈ったのは、直接的に「性」に触れた話ではありませんでした。誰にでもある不安や悩みを直視し、1人で解決しようと思わず、頼ってほしい―。大人になりつつある生徒たちにそう語りかけたメッセージを紹介します。

 みんなはそろそろ親からも「自立しなさいよ」と言われるかも知れない。でも自立って自分1人で生きることじゃないからね。間違えないように。自立とは、居場所をいっぱい持っていること。頼る先をいっぱい持っていること。落ち込んだとき、これはあいつに聞けば解決するとか、学校で嫌なことがあってもクラブにいったら気が晴れたとか、大好きな本屋さんで時間をつぶしたら気が晴れたとか…。解決方法があちこちに転がっていたら救われるでしょ。1人で全部なんてできないのは当たり前。

 そして、「寂しい」を恥ずかしいと思わないでください。何を言い出すんだと思うでしょ。でも事件に巻き込まれたりする人はだいたい、きっかけは「寂しい」なんです。例えば、おうちに帰っても誰もいない、一緒にご飯を食べる人がいない、友達など話す人がいないとなれば、どこかにいっちゃったり。誰だって寂しいし、誰だって自分を見てほしい、認めてほしいんです。寂しくても恥ずかしくないから、「寂しい~」と叫んでもいいかも。大丈夫、生きていけます。悩みがあっても、生きていけますから。

 今すごく困難な状況に置かれている人がいるかもしれない。でもちょっと考えて。みんな一人一人に名前がある。愛されていなかった人はいないし、名前を付けてくれた人がいて、望まれて生まれてきた。それを、自分の名前を書くときにいちいち思い出してほしい。先生は病院の人だから病院に来てくれたらいろんな相談にのります。みんなの周りにも、色々な相談施設があります。なかなかしゃべるの嫌だなと思うかもしれないけれど、匿名だから大丈夫。友達で悩んでいる人がいたら、子ども同士で解決は難しいかもしれないから、信頼のおける大人、保健の先生でもいいし、誰かにつなげる。誰かにつなげるということを頑張ってみてください。思春期はいろいろ大変だと思うけれど背伸びは禁物。相談したほうが早い。大人は待ってますから相談してください。

 

授業を取材して

 何が始まるんだろう―。授業が始まる前、ホールはザワザワとフワフワの混ざったような空気に包まれていました。

 長岡さんの講演は日ごろの授業よりも短い30分。その中で、人類の進化から男女の体の仕組み、性感染症など内容は盛りだくさんで、すべての子どもたちに知ってほしいことばかりでした。自分自身と、自分の大切な人を守るために。自分で人生の選択をし、納得して生きていくために。

 感想を発表する場面で、男子生徒は「コンドームを使うことは性感染症にならないためのマナーだと分かった」、女子生徒は「『生』は個人の生命、『性』は心という字が入り、自分と相手の愛が含まれている」と話していました。講師のメッセージを真剣に受け止め、自分の言葉で語る生徒たち。ホール内の浮ついた空気は、いつの間にか消えていました。

 別の学校で行われたモデル授業を見学した保護者からは、「授業をきっかけに家庭でも話してみたい」との感想が都教委に寄せられたそうです。こうした深い授業が各地に広がり、子どもたちが性をタブー視せずに主体的に考えるきっかけになることを願ってやみません。