8歳から祖父を介護「子どもでいたかった」心の傷 高校生25人に1人が「ヤングケアラー」 厚労省が支援へ

芳賀美幸 (2021年3月31日付 東京新聞朝刊)
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トラウマ(心的外傷)に関する本を手にする塩谷さん。今も家族への罪悪感を引きずっている=大阪府内で

 病気や障害のある家族の介護や世話をしている子どもを「ヤングケアラー」と呼ぶ。「高校生の25人に1人がヤングケアラー」との調査結果が昨年発表され、注目を集めた。介護に追われて孤独やストレスを感じたり、勉強時間が十分に取れなかったりと、子どもの生活への影響も心配されている。 

排せつ介助も 当たり前と思っていた

 「子どもとして扱って、話を聞いてほしかった」。岐阜市出身の塩谷(えんや)友香さん(24)=大阪府在住=は、8歳から認知症の祖父を、12歳からは難病を患う母も介護してきた。「自分は当たり前だと思っていたし、周囲の大人も『えらいね』『すごいね』という反応だった」と振り返る。

 当時、塩谷さんは両親との3人暮らし。祖父は祖母、叔父と近くに住んでおり、70代後半で認知症と診断された。祖母も体調が良くなかったため、叔父が夜勤でいない間、折り合いが悪かった母の代わりに、8歳だった塩谷さんが祖父を介護することに。週末に泊まりがけで排せつの介助などをした。深夜に祖父が「家に帰る」と外に出ようとするのを必死でなだめたこともあったという。

 さらに12歳の時、母が難病のパーキンソン病を発症。父は仕事で忙しく、塩谷さんが食事の介助などを担った。母は精神的にも不安定で、取り乱した状態になることも。それから祖父が82歳で亡くなるまでの2年間、平日は母、週末は祖父の世話に追われた。

ストレスで髪が… 離れたら罪悪感も

 塩谷さんはストレスで髪の毛を抜くのがくせに。中学生の時には、後頭部の毛がごっそり抜け落ちた。同級生に「落ち武者」とからかわれ、なるべく人に会わないようにわざと遅刻して登校した。「学校に行きたくなかったけど、家で1日中、母といる方がしんどかった」

 高校生になると母の精神状態も落ち着き、普通に学校に通えるようになった。大学進学を機に親元を離れ、今は父が母を介護している。だが「家族を捨てたような罪悪感が消えない」と塩谷さん。夜は母が自分を呼ぶ声が聞こえる気がして、睡眠薬なしには眠れないという。

 一方で、大学を中退後、4年ほど前から定時制高校生の居場所づくり活動に参加し、さまざまな家庭事情を抱える生徒と出会った。SNSでヤングケアラーの若者ともやりとりするように。家族のために自分を犠牲にしている仲間の姿が、過去の自分と重なった。「もっと自分を大切にしていいんだよ」。そう自分にも言い聞かせながら、歩む道を探している。

埼玉県が高校2年生5万人を調査 厚労省は初の全国調査

 厚生労働省は、ヤングケアラーを「年齢や成長の度合いに見合わない責任や負担を負い、家族の介護や世話をすることで自らの育ちや教育に影響を及ぼしている18歳未満の子ども」と定義。埼玉県が昨年、県内の高校2年生約5万人に聞いた調査では、25人に1人が「ヤングケアラーである・だった」と回答した。

 一方、厚労省の2019年度の調査では、市町村が設けている要保護児童対策地域協議会の5割強がヤングケアラーの概念を認識していなかった。認識していた協議会でも実態を把握していたのは3割。家族内の問題で表に出にくく、子ども自身も問題を認識していないため相談に結び付かない課題も浮かび上がった。厚労省は2020年度、全国規模のヤングケアラー実態調査を初めて実施。近く結果をまとめ、支援策を検討していく方針だ。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年3月31日

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