教え子が不登校になったから…元教員夫妻がつくった居場所「かけはし」

米田怜央 (2023年1月5日付 東京新聞朝刊)
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トランプやゲームで遊ぶ子どもたちとボランティアの専門学生

学校外の居場所 横浜市の公民館で

 「ここはいつ来ても、いつ帰ってもいい。何かをやりたくなかったらやらなくてもいいからね」

 横浜市旭区の公民館の一室。隅のテーブルで、うつむきがちな女子児童に広瀬貴樹さん(39)が語りかける。初対面の緊張をほぐすように、ゆっくり、優しく。ここは、学校に通っていない子どもたちのために広瀬さんらがつくった居場所だ。

 「つらい思いをしている子にとことん寄り添いたいのに」。市立小学校で教員をしていた広瀬さんは悩んでいた。発達障害や家庭の事情を抱える児童を多く目にしていた。しかし、時間や職権には限りがあった。

 そんな中、教え子が中学進学後に不登校になったと知った。「学校外に居場所が必要だ」。思いは強まった。ともに教員をしていた妻の千尋さん(42)と退職し、2021年4月、市内の公共施設を借りて子どもを受け入れる「居場所」と名付けたフリースクールを開始。翌月、一般社団法人「かけはし」を設立した。きっかけになった教え子が唯一の利用者だった。

「子どもが合わせる」のではなく

 ルールは「子どもたちが自分で決めること」。集団生活が苦手だったり、授業についていくのに精いっぱいだったり。不登校の理由はさまざまだが、子どもたちは自身を否定しがちだった。「自主的な学びが自己肯定感につながる。子どもが合わせるのではなく、子どもに合わせる」。貴樹さんは説明する。

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かけはし代表の広瀬貴樹さん(右)と妻で理事の千尋さん=いずれも横浜市泉区で

 間借り先の一つ、泉区の旧いちょう小学校。12月中旬、教室に集まった10人ほどが手元のホワイトボードに「けん玉」「パズル」などとこの日の予定を書き込んだ。「やろう」。それを見たボランティアは背中を押す。向かいの和室では数人がゲームで遊び、近くの別の建物では、女子中学生が勉強を教わっていた。

 小学4年の弟と前月から通っている6年の男子児童(12)は、別のフリースクールが合わなかった。「ここはやりたいことを決められるのが楽しい」。中学2年の女子生徒(14)は「厳しいルールがなくて自分らしくいられる」と声を弾ませる。

支援の「溝」にいる子をつなぐ

 2021年度、全国の小中学校で不登校の児童生徒は過去最多を記録した。1人のために始まったかけはしにも、今では神奈川県内外から60人ほどが集まる。市内5カ所で週4回。スタッフや施設の規模から、受け入れ態勢は限界に近い。月会費は5000円にまで抑える。公的な補助はなく運営は苦しい。広瀬さん夫妻はアルバイトで生活費をまかなう。

 「うちだけでは全ての子どもに寄り添うことはできない」と貴樹さん。子ども食堂や学習支援の団体と協議会を発足させたり、利用者の籍がある学校と面談したりして連携を進める。「学校と家庭以外の居場所がまだまだ少ない。地域全体が見守る社会になることが大切」。支援の溝にいる子をつなぐ。団体名に込めた願いだ。

不登校の子どもとフリースクール

 文部科学省によると、全国の国公私立小中学校で2021年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は24万4940人で過去最多だった。増加傾向が続く中で、コロナ禍が拍車をかけたとみている。NPO法人フリースクール全国ネットワークによると、全国には500~600カ所ほどフリースクールがあるとみられ、需要が高まっているが、公的支援が少なく、多くは経営に課題を抱える。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年1月5日

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