エアコンつけても30度台の教室で我慢する子どもたち 断熱改修は1教室150万円、寄付とボランティア頼みで国は消極的

出田阿生、福岡範行 (2023年9月14日付 東京新聞朝刊)

図解 専門家が求める断熱改修

 学校が暑い。公立学校でエアコンの設置が進んでいるのに、現場からは「教室内の温度が下がりにくい」との声が相次ぐ。鍵は冷房の効きをよくする教室内の断熱改修だが、整備は停滞気味だ。全国の市民有志らが「学校での熱中症を防ぎたい」と寄付を集めて改修を進めているほか、国にも早急な対策を求める署名2万6816筆分を提出した。本格導入には国の力が必要だが、腰は重い。 

「けなげに我慢、かわいそうで…」 

 「とにかくエアコンが効かない。子どもたちが、けなげに我慢しているのがかわいそうで…」

 さいたま市立大宮小学校(大宮区)で8月下旬に開かれた断熱改修を紹介するワークショップに来ていた市内の別の小学校長は、現状をそう吐露する。「1度、2度でも教室の温度を下げたくて参加した」とし、安く買える材料で窓ガラスの遮光パネルを作る作業を熱心に見ていた。 

屋上の熱が直接 最上階は特に暑い

 教室の断熱のワークショップは2019年以降、全国20校以上で開かれた。大宮小ではNPO法人「環境ネットワーク埼玉」が主催し、保護者や子どもら約40人が参加。講演で東京大の前真之(まえまさゆき)准教授(建築環境工学)は「1教室あたり約150万円で十分な対策が可能だ」と指摘した。

写真

教室の室温を調べた画像。断熱改修をしていない教室(左)では30℃超えの場所が多いが、改修済みの教室(右)は20℃台後半を意味する黄色が広がる(前真之准教授の提供画像を元に作成)

 前さんによると、暑さが特に厳しいのは、屋上の熱がじかに伝わる最上階の教室だ。真夏日の調査でエアコンをつけても30数度からなかなか下がらず、時間が経過し約10度の冷気が出ても、28度以下にならない教室があった。

断熱材の効果 涼しくて勉強に集中

 さいたま市立芝川小学校(大宮区)では昨夏、最上階の教室の天井板や壁に断熱材を入れ、窓に太陽光を反射させるパネルを設置したところ、室温は5~6度下がった。大半の材料は協力企業から無償提供を受け、足りない分は寄付でまかなった。

いったん天井板をはがして断熱材を入れる参加者ら=さいたま市で(さいたま断熱改修会議提供)

 「エアコンを最強にしても汗だくになる過酷な環境」(学校関係者)だったが、改修後のアンケートで子どもたちは「涼しくて勉強に集中できるようになった」と喜びの声を寄せた。

 断熱改修は冬の寒さにも効果的で、冷暖房費の節約になる。前さんは「日本中の学校で、子どもたちが暑さ寒さに苦しんでいる。断熱改修をすれば教室を快適に保ち、電気代も抑えられる」と訴えた。

現状は「改修できても1教室だけ」

 首都圏で学校の断熱改修は、さいたま市以外にも神奈川県藤沢市、千葉県流山市などで例がある。

 ただ、市民らの寄付や工務店のボランティア頼みが現状。改修できても1教室だけのケースが相次ぎ、ある学校関係者は「公平性を考えると、本来は学校全体を改修したい」と本音を語る。

国は断熱のための補助を検討せず

 有志が8月末、署名を手渡した当時の永岡桂子文科相は、政府が温暖化対策で住宅やビルの断熱強化を進めていることもあり「学校の断熱改修は非常に重要」と前向きだった。だが、動きは鈍い。文科省施設助成課によると、断熱改修の特別な補助は、建物改修などの既存の補助金を使えるとして「検討していない」という。自治体からは国の改修の指針などを求める声も上がるが、「省内でできる部署がないと思う」と否定的だ。

 署名を提出した有志の横浜市の梶本寛子さんは「今の学校は熱中症の危険があり、命の問題だ。早急に対策を進めてほしい」と訴えた。有志側の試算では、全国の小中学校の普通教室を断熱改修するのに必要な予算は8000億円弱だった。

公立小中学校の冷房設置率

 文部科学省のまとめによると2022年9月時点で、普通教室の95.7%に冷房が設置されている。2017年4月は49.6%だったが、文科省が2018年度に特例的に設けた補助金も後押しになり普及した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年9月14日

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