給与からPTA会費230円が天引き 現役教諭が返還求め提訴「加入は任意なのに、強制ではないか」

山田祐一郎 (2024年1月14日付 東京新聞朝刊)

考えようPTA

 PTA会費を巡り、公立高校の現役教諭が毎月の給与から天引きされた分の返還を求める訴訟を起こした。加入の意思を確認せずに会費やPTAの業務を負担させる実態に「任意という名の強制ではないか」と問題提起する。
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本人の同意なくPTA会費が天引きされた男性の給与明細

教員の労働力、賃金が搾取されている

 提訴したのは鹿児島県立高校の40代の男性教諭。昨年7月に、勤務する高校の校長とPTA会長を相手取り訴訟を起こした。「選択肢がない中で教員に負担を強いるのが当然となっている。自身の意思という建前で教員の時間や労働力、賃金が搾取されている。その実態を広く知ってほしい」と提訴に至った思いを語る。

 訴状などによると、男性は2017年から勤務する高校で、PTAへの加入が義務であると誤認させられた上で給与から「PTA会費」名目で月230円を天引きされ続けたと主張。昨年3月までの計1万6560円を返還するよう求めている。

意識が変わったきっかけは、首相答弁

 教員として20年以上の経験がある男性はこれまでもPTA会費を支払ってきた。理由について「教員として会費は支払わなければならないものという誤った認識を持っていた」と明かす。意識が変わったきっかけは、昨年3月の参議院予算委員会でのやりとりだ。PTAの入退会について、岸田文雄首相が「PTAは任意団体であり、入退会は保護者の自由」との見解を示した。

 「加入が任意であるのは教員でも同じはず」。意思確認もされていないまま会費が天引きされ続けてきたことに疑問を感じ、昨年5月、給与からの天引きとこれまでの会費の返還をPTA会長と校長に求めた。校長は、天引きをやめることに応じたが、校長もPTAも過去分の返還には応じなかった。このため原則1回の審理で解決する少額訴訟を鹿児島簡裁に起こしたが、相手が争う姿勢を示したため通常訴訟に移行。現在、鹿児島地裁で審理が続いている。

 男性は「加入を強制する法的根拠は存在せず、加入の意思を確認した証拠も存在しない。本人の同意なく給与から天引きするのは違法」と訴える。「こちら特報部」の取材に校長は「裁判が続いており、コメントは控えたい」としている。

疑問を持つ人は皆無 訴訟の意義は?

 これまでの審理の中で、校長とPTA側は、男性の加入意思を明示的に記載した書面などがないことを認めた上で「(男性は)以前、別の県立高校のPTAに加入し、会費を給与から天引きされていた。今の学校で天引きで会費を納付した時点で入会の黙示的な申し込みと承諾の合致があった」などと反論する。

 教員のPTA加入を巡る問題について、PTA会長を務めた経験がある後藤富和弁護士は「教員は保護者以上に、加入しないという選択をしにくいのだろう。PTA側も新たに着任する教員の加入意思をすべて確認するのは難しい」と指摘する。「PTAが教員の労働環境改善の場としても機能すればよいのだが、多くの教員にとってPTA加入のメリットは少なく、会費や業務など負担ばかりとなっている」と話す。

 教育ジャーナリストの佐藤明彦氏は「公立学校教員は、いろいろな面で公私の線引きがあいまい。休日も自宅で教材研究をしたり、自費で教材を買ったりする人が少なくない。PTAの会費も同じで天引きされていることに疑問を持つ人は皆無に等しい」と指摘する。その上でこの訴訟の意義をこう強調する。「今後、各学校で教員の加入意思の確認が行われるようになれば、若い教員の中には加入しない人が増える可能性もある。そうなれば、PTAの見直しなどの動きが加速し、教員の業務範囲の再定義にもつながる」

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  • 匿名 says:

    ほぼ最後まで、特に疑問もなく夫婦2人で退職するまで、合計25万円以上支払いました。職員については本人死亡の際の花をおくるという規定は見ましたが、まずそんな事には当てはまらない。校内のイベントにPTAから補助していただくので、先生方の親睦会費からも出して欲しいと言われたとき、はじめて自分たちもPTAに入っていますよと発言しかけましたが、言えませんでした。PTAのあり方を見直すことは大切だと考えます。

    匿名
  • 匿名 says:

    あああ、ついにこうなってしまったか。男性教諭の方の勇気を賞賛する。私も元教員で、同じ疑問を持っていたので、問題提起という意味でも有難く感じる。思想的には私はもっと過激で「PTAは不要、全面廃止」を訴えたい。現役時代、私はPTAに直接的に関わる分掌で、「研修」と称して実態は親睦会のPTA小旅行に何度か付き合わされた経験がある。仕事であるにも関わらず、何と費用は自分持ちなのだ!何かおかしいと思わないか?保護者同様、教師もPTA参加・不参加を自由に決められるようにして欲しい。教諭氏の勝訴を遠くから祈っている。

  • 一保護者 says:

    この鹿児島の教職員の言い分に、1000%賛同します👍

    一保護者 男性 40代

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