「背浮き」「浮いて待て」は海では困難 波があると水泳上級者でも1分持たず 必要なのはライフジャケット

加藤益丈 (2023年8月13日付 東京新聞朝刊)
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高さ30センチの波を再現すると、背浮きでは時折、顔が水面に沈む=いずれも横浜市中区の横浜海上防災基地で

 水の中に落ちた時、体力を残して救助を待つための「背浮き」。教育現場で「浮いて待て」のキャッチフレーズで取り入れている例もあるが、海のように波があると難しい-。日本水難救済会と日本ライフセービング協会の実証実験でそんな現実が浮かび上がった。水難救助の専門家は「海や川での遊泳にはライフジャケットが必須だ」と呼びかけている。

実証実験で高さ30センチの波を再現

 「行きまーす。用意、ピッ!」

 普段は潜水士らが訓練する、海上保安庁の横浜海上防災基地(横浜市中区)のプール。要救助者役の大学生3人がTシャツと短パン姿で背浮きをしている。そこに、笛を合図に高さ30センチの波を再現。水面から出ていた顔に水がかかるようになり、1人は1分も持たずギブアップした。

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釣り客が溺れた想定でクーラーボックスを持ち背浮きする実験。浮きやすい一方、持ちにくく力を奪われ、クーラーボックスに当たった波が顔にかかる

 

 浮きやすいように靴を履いたり、溺れた人を助けるため投げ入れられることのある空のペットボトルやクーラーボックスを両手で顔の近くに持ったり、条件を変えて実験を繰り返した。

 ところがこれらの条件でも、波が出ると顔に水がかかり、長い時間、救助を待つのは難しそうだった。

ライフジャケットがなければ「無理」

 一方、膨らんだビーチボールを詰めたリュックを持った場合は浮きやすかった。ライフジャケットを着ると、波のうねりで全身が揺れても、顔を含め、体が広く水面を越えた状態を保った。波を高くしても安定し、ギブアップする人はいなかった。

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ライフジャケットを着ると、波が高くても背浮きで安定的に浮き続けられる

 参加した3人はライフセーバーや水泳部出身者で、泳ぎのうまい人たち。最初の実験でギブアップした大学4年落合優哉さん(23)は「経験があるのでいけると思っていた。でも、波がある時にライフジャケットなしに背浮きで浮くのは無理だと思う」と振り返る。

 2020年に小学校で完全実施された新学習指導要領で、高学年は「背浮き」や浮き沈みしながら呼吸を続けて救助を待つ動きを学ぶことになっている。もっとも文部科学省の担当者は「背浮きを海で活用する想定では指導していない。あくまで安全確保につながる運動の一環」と説明する。

コロナ明けの海水浴 十分な備えを

 日本水難救済会の遠山純司理事長は、今回試した高さ30センチの波について、管理者のいる海水浴場なら遊泳禁止にするレベルだが、管理者のいない海岸では珍しくない高さだという。また「外洋では、穏やかな部類に入る」と指摘する。

 新型コロナウイルス禍が明け、各地で4年ぶりに規制のない海水浴が楽しめるようになった。遠山さんは「泳ぐ能力の高い人でもライフジャケットなしで安定的に浮くことが難しい。ライフジャケットを用意するなど十分な備えをして楽しんでほしい」と話した。

2022年の水難事故 死者・不明者727人

 警察庁のまとめによると、2022年に全国で発生した水難事故は1346件(前年比49件減)で、水難者は1640人(同15人増)、死者・行方不明者は727人(同17人減)だった。水難者のうち中学生以下の子どもは198人で、死者・行方不明者は26人。

表 2022年に首都圏で起きた水難事故の状況

 都道府県別で水難事故が最も多かったのは、沖縄県の106件。次いで東京都84件、千葉県66件。

 死者・行方不明者を場所別でみると、海が363人、河川が245人。子どもの死者・行方不明者を場所別でみると、最多は河川で14人、事故時の行為別の最多は「水遊び」が11人だった。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月13日

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