コロナ禍で保育施設の実地検査なしでOKに? 国が規制緩和を検討、保護者や専門家から不安の声 1月22日までパブコメ募集

(2022年1月21日付 東京新聞朝刊)
 新型コロナウイルスの感染対策の影響で、年1回以上の実地検査を自治体に義務付ける保育所など児童福祉施設への指導監査に、書面やリモートの活用が検討されている。コロナ禍で施設側から実地検査を断られた自治体の要望が発端だが、待機児童対策で民間事業者が運営する保育所が増えた結果、「保育の質」の格差が顕著になっており、保護者らから保育環境の悪化につながるとの懸念も出ている。
表 実地検査の主な項目

「書面やリモート」自治体から要望

 「施設側からの要望もあり、現地への立ち入りを控えている。書面やリモートなどの検査ができるよう検討してほしい」。昨年、地方分権改革に関する提案募集で大阪府茨木市はこんな声を上げた。

 首都圏でも、感染対策を理由に施設側から検査を断られた事例がある川崎市や埼玉県川口市が賛同。担当者は取材に「実地でしかわからないこともあるが、コロナ禍では書面もやむを得ない」(川崎市)、「監査を簡単にしたいのではない。融通がきくよう、まずは議論を」(川口市)と話す。

厚労省「例外的に可能にする趣旨」

 提案を受けて厚生労働省は昨年8月、有識者らと感染対策や指導監査のあり方の検討を開始。12月末、監査を実地で行うと定めた要件を、児童福祉法施行令から削除する改正案を公表した。1月22日までパブリックコメント(意見公募)を実施している。

 厚労省は「施行令から削除しても『あくまで実地検査が原則』と局長通知で定める予定。例外的に書面やリモートでの監査を可能にする趣旨だ」と説明。高齢者や障害者の福祉施設の指導監査では、実施方法や回数を局長通知で定めており、児童福祉施設も通知に切り替えるという。改正令は4月1日施行の見込み。

事故があるのに…「保育の質」は?

 こうした動きに保育関係者は危機感を抱く。「保育園を考える親の会」の普光院亜紀代表は「保育事故や事件は後を絶たない。なぜ規制を緩めるようなことをするのか」と憤る。保護者から不適切な保育や職員の大量退職の相談も受ける。「自治体が監査に消極的になったり、実地検査をやらない理由にしたりすると不安だ」と反対する。

 待機児童対策で保育の受け皿は増える一方、「質」の向上は課題だ。内閣府によると、2020年に報告された全国の保育所などの事故は2015件に上り、うち子どもが死亡したケースも5件あった。

 保育事故に詳しい寺町東子弁護士は「実地検査は施設のにおいや汚れ、避難経路が実際に使える状態かなど、精査や深掘りのきっかけになる情報が得られる。コロナで保護者が内部を見て回れない中、行政が現地確認をしなくなったら子どもの安全は誰が守るのか」と指摘する。

児童福祉施設の実地検査とは

 児童福祉法施行令に基づき、自治体に年1回以上の実地検査を義務付けている。行政の担当者が保育所や児童養護施設などに出向き、職員の配置や施設の安全対策など、設備や運営に関する基準を満たしているかをチェックする。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年1月21日

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