<子どもの平成 下・デジタルネーティブ>「プログラミング、楽しいから」 社会を変える斬新な発想 2週間でパイロットの飲酒チェックアプリ

(2019年4月26日付 東京新聞朝刊)
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共同制作したゲームアプリについて説明する浅野啓さん(右)と田村来希さん=都内で(池田まみ撮影)

 平成の子どもたちは、インターネットやパソコンが当たり前にある中で生まれ育った「デジタルネーティブ」と呼ばれる世代だ。「出会い系サイト」「ネットいじめ」などマイナス面が注目されがちだが、めまぐるしく進化する技術を空気のように吸収して使いこなし、斬新な発想で社会を変える可能性を秘めている。

「ゲームつくりたいな」面識ない中3と高1、ネットで共同制作

 「ゲームつくりたいな」。都内の高校2年生、浅野啓さん(16)は中3だった2年前、短文投稿サイトのツイッターでつぶやいた。何げないその一言に、返事が来た。「一緒にやろう」。さいたま市に住む一つ年上の田村来希(らいき)さん(17)だった。一面識もなかったが意気投合し、その日のうちに共同制作することが決まった。

 取りかかったのは、迷路の中を逆方向に動く二つのブロックを同時にゴールさせるゲーム。ネット上でアイデアを出し合ってプログラミングし、3カ月で完成させた。初めて顔を合わせたのは、知り合って7カ月後だった。

 ゲームは昨年、中高生を対象に民間企業が開催するスマートフォンのアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」で優勝した。複数のデータを管理・編集するデータベース作りが上手な田村さんと、デザインのセンスにたけた浅野さん。2人は「互いの得意分野を駆使できたから」と胸を張る。

 「プログラミングは楽しいからやっている」と話す浅野さんだが、最近作ったアプリは世の中の問題解決に直結する。航空会社での利用を想定し、勤務シフトを入力すると、前日の何時までにどのくらいのアルコール摂取なら乗務に影響しないか、酒の種類別に教えてくれる。パイロットらの飲酒問題のニュースを聞き、2週間で完成させた。

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家事のアイデアをネット上で共有するサービスを開発した三橋優希さん(左)。隣は母の優子さん(七森祐也撮影)

家事の工夫を共有するアプリ開発の高1 経産省も熱視線

 都内の通信制高校1年、三橋優希さん(15)が開発したウェブサービスも、多くの人に役立ちそうだ。

 自宅では家事は家族みんなでやる決まりで、三橋さんも親から教わった手順で手伝ってきた。ある時、知人の洗濯物の干し方が、自分とは全く違うことに気付いた。「ほかの家の工夫を取り入れれば、もっとうまく家事ができるのでは」と、効率的な家事のやり方をネット上で共有できるサービスをひらめいた。

 利用者が自分の家事の工夫を、「生ごみ処理」「風呂掃除」などテーマを付けて写真と文章で投稿すると、他の利用者も見られる仕組みだ。写真の画像データに記録される撮影場所など、個人の特定につながる情報は投稿時に自動で削除されるよう配慮した。試作版を使ってもらった人に意見を聞きながら、機能を高めた。

 三橋さんはこの開発により、経済産業省が後援する17歳以下のIT人材発掘・育成事業「未踏ジュニア」で、特に優れた「スーパークリエータ」に選ばれた。正式版は年内の一般公開に向けて準備中だ。

興味の赴くまま「ググって」独学 つくりたいものをつくる

 浅野さんや田村さんは小学生の頃にパソコンなどでゲームに親しんだのが、プログラミングへの入り口だった。三橋さんは絵を描くのが好きで、小学1年でグラフィックデザインソフトを使い始めた。誰かから英才教育されたわけではなく、興味の赴くまま、分からないことは「ググって(検索して)」(浅野さん)、楽しみながらここまで来た。

 未踏ジュニアで三橋さんを見守る専門家の一人、鵜飼佑さん(30)も「つくりたいものをつくることがスタート」と話す。平成元年生まれの鵜飼さん自身、中学1年でパソコンを買ってもらい独学でプログラミングを覚えた、デジタルネーティブの先駆けだ。

 激変するこれからの社会を引っ張るのは、平成育ちの子どもたち。鵜飼さんは「いかに人と違うことを考えるか、いかに社会にインパクトを与えるかを、常に考えてほしい」と後輩たちにエールを送る。

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