コロナ禍で家族写真の出張撮影が急増 外出できずイベント不足…巣ごもり消費に変化

中沢佳子 (2021年9月5日付 東京新聞朝刊)

日常のささやかな「イベント」として、プロに出張撮影を依頼して自宅での自然な家族写真を撮ってもらう伊東さん(左奥)と子どもたち=川崎市高津区で

 新型コロナウイルス禍は人々のお金の使い方を変えた。外出やイベントに制限がかかり、洋服などモノへの消費意欲が薄れ、体験型観光といったコトへの消費もままならず、「巣ごもり消費」が定着して久しい。そして今、長引く自粛生活で変化の乏しい日常の中、新しい消費スタイルの兆しがある。

祖父母へ送る写真 子どもは「イベント」 

 「バタバタと過ぎる毎日の中、家族の写真を最後に撮ったのが娘の七五三の時と気付いた。あっという間に成長するこの子たちとの、何げない日々を記録しておきたい」。川崎市高津区の自宅で、会社員伊東未来さん(32)が、長女小春ちゃん(6つ)と長男千晴ちゃん(3つ)を傍らにして話す。

 この日、伊東さんはインターネット上で写真や動画素材を提供する「ピクスタ」の出張撮影サービスを依頼し、プロフォトグラファー巽麻悠子さん(29)を自宅に招いた。子どもたちは見知らぬ大人の訪問に大騒ぎ。やがて巽さんと打ち解けると、あどけない笑顔をカメラに向けた。

 気ままに外出できず、子どもを退屈させないよう苦労している伊東さん。遊具やプール、少しいいお肉や果物のお取り寄せにお金を使い、生活に変化を加えてきた。「外食の代わりに、買ってきたおすしを一つずつお皿にのせ、プラレールで回す『おうち回転ずし』もしてみた」と苦笑する。出張撮影も、故郷・山形の祖父母へ送る家族写真を撮るとともに、子どものための「イベント」だという。

代わり映えのない日常で「トキ消費」傾向

 ピクスタの調査では「コロナ禍で、家族イベントが足りない」という人が77.1%に上る。また、コロナ以後、七五三や誕生日、卒入園といった記念ではない、普段の家族写真の撮影依頼が急増。今年1~6月は422件と、2019年同期(22件)の約19倍だ。同社広報の小林順子さんは「帰省代わりに実家へ家族写真を送る人が多い。また、プロによる撮影を家族のささやかなイベントにする傾向もある」と語る。

 総務省の家計調査で、2020年の2人以上世帯の実質消費支出は前年比5.3%減。交通、国内パック旅行など「教養娯楽サービス」、外食、洋服の減少が目立つ。一方、テレビなど「教養娯楽用耐久財」、酒類、油脂・調味料など巣ごもり消費系は伸びた。

 「消費の場は家やネット空間に移った。しかしそれでは代わり映えのない日常が続き、生活にメリハリをつけたいという欲求が高まっている」と、博報堂生活総合研究所上席研究員の三矢正浩さんと、内浜大輔さん。同研究所はコロナ前、「モノ」「コト」の次の消費として、好きなことが同じ不特定多数の人が集まり、その時だけの楽しみを共有する「トキ消費」の現象を指摘していた。音楽ライブや、街で仮装を楽しむハロウィーンが一例だ。

「自分」「日常」の消費傾向、コロナ後も

 三矢さんは今、生活の彩りにイベントを取り込む、「日常の中のトキ消費」の動きがあると見る。「例えばネットで話題の、洗濯ばさみにイチゴをつるし、取って食べる『おうちイチゴ狩り』。プロに出張撮影を頼むのも日常のトキ消費化の一つだろう」

 日銀は旅行や外出に使えずにたまった「強制貯蓄」が、累計20兆円に上ると試算している。感染が収束すれば、滞ったお金は再び「外」へ向かうとの期待もある。しかし、内浜さんは懐疑的だ。最近、コロナ禍で窮地に陥った店やイベントなどを支援するクラウドファンディングに、お金を出す人が目立つことなどを挙げ、今後の消費動向をこう見通す。

 「コロナを機に、人々は外の世界から『自分』『日常』に目を向けるようになり、身近にある楽しみに気付いた。消費の対象にも、自分が主体的に関われる物事を選ぶ傾向が強い。感染が収束しても、その流れは続くのでは」

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